井上道義さん&京都市交響楽団による演奏会を聴いて

今日は、井上道義さん&京都市交響楽団の演奏会を聴いてきました。曲目は下記の4曲。
●ラヴェル ≪ダフニスとクロエ≫第2組曲
●ドビュッシー ≪夜想曲≫
   ~休憩~
●武満 徹 ≪地平線のドーリア≫
●ドビュッシー ≪海≫

井上さんによるフランス音楽を聴くのは、初めてのことかもしれません。しかも、ドビュッシーの2曲に挟まれて武満さんの作品が置かれてもいる。
はたして、どのようなラヴェルとドビュッシーに(そして、武満さんに)なるのだろうかと、興味津々でホールへと向かったものでした。
なお、チケットは完売だったようです。井上さん、2024年12月をもっての引退を表明されているために、今のうちに実演に接しておかなければ、という思いを抱いている聴衆が多いのだろうとも推察できますが、そのことを割り引いても、井上さんの人気の高さが窺えます。
なお、開演前に井上さん自らによるプレトークが催され、その中で、今後、京響とは5つの演奏会が企画されていることが告げられました。ショスタコーヴィチを多く採り上げるようですが、プッチーニの≪ラ・ボエーム≫全曲や、ブルックナーの交響曲第8番なども予定されているとのこと。CDになっている京響とのブルックナーの8番(2013年ライヴ)が素晴らしかっただけに、なんとも楽しみであります。

さて、本日の演奏、聴き終えての印象としましては、私にとっては、どうも居心地の悪いラヴェルでありドビュッシーだったというのが正直なところであります。何だか、よく解らないラヴェルとドビュッシーだったとも思えた。
まずは、前半の2曲についてでありますが、ダフニスのほうが井上さん向きだったように思えます。ゆったりとしたテンポで開始され、音楽が膨らんでいき、かつ、光彩を放ち始めるうちに、音楽が生気を備えてゆくというプロセスのようなものが描かれていた。しかしながら、色合いの精妙さが伝わってこない。肌合いが単調でもある。「全員の踊り」は、確かに躍動感があるのですが、表面的に思えた。
そのような印象は、≪夜想曲≫において、更に増長されていきました。繰り返しになりますが、精妙さに欠けたドビュッシーだったと思えてならなかったのであります。なるほど、音楽に凹凸を付けようと腐心したりと、やりたいことは伝わってくるのですが、それが作品の血肉となっているのかと言えば、疑わしかった。
更に言えば、井上さんの、オーバーアクションな指揮が、視覚的に煩わしくもあった。

前半での印象は、後半の≪海≫でもあまり変わりませんでした。
なるほど、井上さんは、大いなる情熱家だと言えましょう。しかしながら、今日の演奏では、その情熱が空回りしていたように、私には思えたのであります。音楽が、収まるべきところに収まり切れていない。なんとも散漫な音楽、或いは、その場その場に拘り過ぎている音楽。私には、そのように感じられたのであります。
≪海≫では、極力指揮姿を見ずに聴くように心掛けたのですが、時おりステージに目を見やると、大袈裟な動きで(しかも、時に不必要と思われる動きや、音楽の流れに一致していないと思われる動きがあったりする)、オケを鼓舞するように指揮をする。井上さん自身がどのような音楽を目指しているのか、今この瞬間にどのような音を欲しているのかを、極力「可視化」できるようにと、左右に上下にと体を揺すり、腕を伸び縮みさせてゆく。ただ、その動きは、なんだか自己満足であるようにも思える。やはり、見ていて煩わしい。
(かねてより、井上さんはナルシストだと思えて仕方がないのですが、その思いを更に強くさせられたものでした。)
全体的に、表現意欲が旺盛過ぎて、音楽が空中分解していた。前半で「単調」という言葉を使いましたが、多彩に過ぎて、音楽が収斂仕切れずに、かえって音楽が確かな音像を結ばずに「単調」なものとなっていた。そんなふうにも言えるのかもしれません。
そして、「あざとさ」の感じられる音楽となっていた。私には、そのように思えてならず、作品の音楽世界に素直に入っていけなかったのであります。
なお、≪地平線のドーリア≫は、響きに面白さがあって、興味深く聴くことができました。雅楽の笙(しょう)や篳篥(ひちりき)を思わせる響きが、随所で聞こえてきたのにも驚かされました。また、音楽の流れが満ち干きする様も、自然に表現されていたように思えます。但し、17人の弦楽器奏者がもろにソロで奏でてゆく音楽のため、各奏者の「非力さ」のようなものが窺えたのが、ちょっと残念でありました。

井上さんによるフランス音楽、私はどうも苦手であります。
ちなみに、プレトークでは、京響はフランス音楽と相性が良いと思っていたが、実際にリハーサルに入ってみると、思い描いていたものと違っていた、といった趣旨のことを仰っていました。とても興味深い話です。
なるほど、京響は、準・メルクルのもと、素晴らしい≪幻想交響曲≫を演奏してくれ、そちらには、私も強い感銘を受けたものでした。