クレンペラー&フィルハーモニア管によるワーグナー管弦楽曲集を聴いて
クレンペラー&フィルハーモニア管によるワーグナー管弦楽曲集から、下記の4曲を聴いてみました。録音は、いずれも1960年。
≪タンホイザー≫序曲
≪ニュルンベルクのマイスタージンガー≫第1幕への前奏曲
≪さまよえるオランダ人≫序曲
≪トリスタンとイゾルデ≫前奏曲と愛の死
いずれも、壮麗にして、雄渾な演奏となっています。とても気宇が大きい。そのうえで、活力に溢れていて、ドラマティックで、輝かしくもある。
そういった事柄は、最初に聴いた≪タンホイザー≫において既に、明瞭に窺えます。冒頭の「巡礼の音楽」からして、厳かに奏で上げられている。それでいて、表情にハリがある。そのハリは、第2部とも言える「バッカナール」を中心とした中間部においても健在。推進力に溢れていて、輝かしい。音楽が存分にうねっていて、官能性を帯びてもいる。その後、第3部で「巡礼の音楽」が戻ってくる訳ですが、そこでは、大伽藍が聳え立つような壮麗さをもって音楽が鳴り響いている。
その他の作品では、もう、細かく触れてゆくことは控えておきましょう。総括すると、風格豊かで、スケールの大きな音楽が築き上げられている、と言うことができるでしょう。
この1960年に録音された一連のワーグナーの録音では、概して、晩年のクレンペラーの多くの演奏で認められるような、遅いテンポによる悠揚たる音楽づくりとは異なる演奏ぶりを見ることができます(この4曲の中では、≪マイスタージンガー≫のみ、やや遅めのテンポが採られています)。そのために、覇気が漲っていて、逞しい生命力を宿した演奏が繰り広げられている。それでいて、やはり、はしゃぎ回るような仕草は皆無。どっしりと構えた音楽づくりが為されている。実に宏大な音楽世界が広がっている。威厳が感じられもする。そして、ワーグナーの音楽に必要な官能味にも全く不足が無い。
ずしりとした手応えのある演奏。そのうえで、ワーグナーを聴く歓びを堪能することのできる演奏。
いやはや、なんとも見事な演奏であります。