パイヤール&パイヤール室内管とソリスト達によるバッハの≪音楽の捧げもの≫を聴いて

今日はバッハの誕生日。今日を中心に、世界中で「Bach in the Subways」と銘打った催しが開かれています。
この活動は、2010年に、デール・ヘンダーソンというチェロ奏者がニューヨークの地下鉄でバッハの無伴奏チェロ組曲を何度も演奏したことがきっかけ。ヘンダーソンはこの活動への参加を他の音楽家にも呼びかけ、賛同者が世界的な広がりを見せています。

ということで、本日は、バッハの作品について。
採り上げますのは、パイヤール&パイヤール室内管とソリスト達による≪音楽の捧げもの≫(1974年録音)であります。

晴朗で、清々しいバッハであります。
堅固な音楽を追及したり、厳粛さを強調したり、というよりも、流麗で屈託のないバッハ演奏が繰り広げられています。晴れやかで、伸びやかで、爽快でもある。音楽が、あちこちで躍動している。そんなこんなのために、とても耳に心地よい演奏となっている。
更に言えば、艶やかで、煌びやかでもある。そう、ギャラントな雰囲気に包まれたバッハ演奏になっている。堅苦しさが微塵も感じられず、暖かみがあって、打ち解けた空気が漂ってくるような音楽となっている。
しかも、端正で、品格の高さが感じられる。過度に派手な音楽になっている訳ではなく、必要十分に堂々としている。そのうえで、親しみやすさを湛えている。

このような、典雅で人懐っこさの感じられるバッハ演奏も、時には良いですよね。と言いますか、ここでのパイヤールによるバッハは、他の演奏からは得難い魅力を宿した素敵なものであると思います。それは、≪音楽の捧げもの≫に限らず、例えば≪ブランデンブルク協奏曲≫や≪管弦楽組曲≫においても、似たような特徴を備えた演奏を聞かせてくれている。
肩肘を張らずに聴くことのできるバッハ演奏。ある種、啓蒙的とも言えそうで、バッハに対する「垣根」のようなものを下げてくれそうに思えます。
なお、パイヤールによるバッハは話題に上ることが少ないかもしれませんが、啓蒙的な側面を度外視しても、多くの音楽愛好家に親しんでもらいたい、魅力的な演奏だと思います。

ところで、ソリストの中には、フルートにフランスの名手であるラリューの名前が記されている。
この作品は、多くのナンバーで楽器の指定がなく、どのような楽器構成を採るかは演奏者の判断に委ねられています。当盤では、冒頭の「リチェルカーレ」からフルートを主体としながら演奏されているのですが、ラリューによる流暢な演奏ぶりが最大限に活かされていると言えましょう。