トリフォノフ&ネゼ=セガン&フィラデルフィア管によるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を聴いて

トリフォノフ&ネゼ=セガン&フィラデルフィア管によるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(2018年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されていた音源での鑑賞になります。

ここでのトリフォノフの演奏ぶりは「研ぎ澄まされた感性」に裏打ちされたものだと言えましょう。一貫して、冴え冴えとした音楽づくりがなされています。
技巧のキレは充分。しかしながら、そのことをこれみよがしに主張するのではなく、しっとりとした質感を持った演奏が繰り広げられています。タッチは強靭なのですが、硬質な音楽を目指しているだけの演奏ではなく、柔らかみがあり、潤いのある音楽が響き渡っている。
音の分離は良く、音楽がベトつくようなことはありません。音楽はキビキビと進められてゆく。エッジの効いている演奏となってもいる。そして、響きには透明感がある。こういった辺りは、誠に現代的な感覚を持っている演奏だと言えそう。
それでいて、醒めた演奏になっている訳ではありません。メカニカルな冷たさを持った音楽になっている訳でもありません。攻撃的になっている訳でもありません。暖かみや潤いがあって、必要十分に情趣深い音楽が奏でられている。必要以上に情緒に流されない範囲で、ラフマニノフならではの甘美な音楽世界が描き出されてもいる。そのうえで、音楽が十二分に煌めいている。
更に言えば、エネルギッシュでドラマティックで、スケールが大きくもある。その様は、ラフマニノフのピアノ協奏曲に似つかわしい。しかしながら、芝居じみた表現に傾くようなことはなく、佇まいの美しさが感じられる。トリフォノフは1991年の生まれで、録音当時は27歳だったことになりますが、演奏には既に風格の豊かさが伝わってくる。
そのようなトリフォノフをサポートしているネゼ=セガンによる音楽づくりは、ケレン味のないもの。小手先で勝負しているような素振りは皆無で、ストレートな演奏が繰り広げられています。そのために、ラフマニノフならではの華麗さが前面に出ている。ドラマティックでもある。そのことが、トリフォノフの煌びやかさを引き立ててくれていると言えましょう。フィラデルフィア管の響きがまた、このことを強調してくれている。

ピアニスト、指揮者、オーケストラの美質を存分に感じながら、この作品の音楽世界にどっぷりと身を浸すことのできる、素敵な素敵な演奏であります。