スウィトナー&シュターツカペレ・ベルリンによるマーラーの交響曲第5番を聴いて

スウィトナー&シュターツカペレ・ベルリン(SKB)によるマーラーの交響曲第5番(1984年録音)を聴いてみました。

スウィトナーは、マーラーの録音にはさほど積極的ではなかったように思えます。セッション録音を残している交響曲は、シュターツカペレ・ドレスデンとの第1番と、SKBとの第2,5番の3曲のみでありましょう。その一方で、N響との共演では少なからずマーラーを採り上げていて、第1,2,4番の3曲のライヴ録音が音盤化されていますので、マーラーの演奏頻度が極端に低かった訳ではなさそうです。
そのようなスウィトナーによるマーラーの録音の中での、ここでの第5番の演奏について。

スウィトナーらしい、こけおどしのない、真摯な演奏となっています。威圧的な素振りが、全く感じられない。
それでいて、力感に不足はありません。やや速めのテンポで推し進めながら、生気に満ち、躍動感に溢れた演奏が繰り広げられている。しかも、はしゃぎ回るようなことはなく、どっしりと構えた演奏ぶりだと言えそう。音楽づくりが堅固で、構成力の高さが感じられもする。
と言いつつも、堅苦しい演奏にはなっていません。見通しがスッキリとしていて、ある種、爽やかな演奏だとも言いたい。それゆえに、ドロドロとしていなくて、清々しい音楽となっている。実に格調が高くもある。
例えば、第4楽章のアダージェットは、過度に耽美的な演奏になるようなことはなく、スッキリとしていて、純音楽的な美しさを湛えている。また、急速楽章では、音楽が空回りするようなことがなく、足腰のシッカリとした音楽が鳴り響いている。
全体を通じて、堅実にして折り目の正しい音楽づくりが為されていて、奇を衒ったところの全くない演奏だと言えましょう。ただただひたすらに、楽譜に記された音を丹念に再現しようという意志の感じられる演奏だとも思える。
そのようなスウィトナーの音楽づくりに対して、SKBによる、ややくすんでいるようでいて明るくもある響きが添えられてゆく。決して華美ではないのですが、充実度に溢れたオーケストラ演奏が繰り広げられている。

これ見よがしなところは微塵もないのですが、とても豊饒な音楽が鳴り響いている。そこには、趣深さのようなものが感じられもする。
大人のマーラー演奏。そんなふうにも言えそうな、聴き応え十分で、独特の魅力を備えた素敵なマーラー演奏であります。