ライナー&シカゴ響によるR・シュトラウスの≪英雄の生涯≫を聴いて

ライナー&シカゴ響によるR・シュトラウスの≪英雄の生涯≫(1955年録音)を聴いてみました。


なんとも剛毅な演奏であります。どこにも迷いがなく、ライナーが固く信じている音楽を、毅然と掻き鳴らしている。そんなふうに言えそうな演奏ぶりが繰り広げられています。
演奏全体が、誠にクリアで、シャープ。そう、明晰で、鋭敏を極めています。そのうえで、頗るダイナミックである。
それはもう、「男気溢れる」演奏だと言いたい。この表現は、ライナーによる多くの演奏に当てはまるように思えるのですが、この演奏では、ひときわ強く感じられます。
腕をビュンビュンと鳴らしながら、一切後ろを振り返らずに、ただただ前へ前へと驀進していくような演奏。それはあたかも「俺に付いて来れなけりゃ、無理して付いて来なくってもいいんだぜ」とでも言っているかのよう。そう、ニヒルな笑みが見えてきそうな演奏ぶりに思えてくる。
しかも、音楽の流動性や躍動感が実に高い。音楽が、至る所で、うねりにうねっています。激情的であり、意気軒高な音楽が鳴り響いている。そして、眩いばかりの光彩を放っている。R・シュトラウスならではの華麗にして絢爛たる世界が広がっている。
そして、誠に精巧でもある。「英雄の敵」での管楽器群の粒立ちの鮮やかさなど、惚れ惚れするほど。「英雄の戦場」での、遮二無二突進してゆくかの如き推進力と、周囲を蹴散らしてゆく威力も、絶大であります。
更に言えば、多感な側面も充分に伺える。硬直した演奏とは対極にあるような、隅々にまで血の通った、しなやか音楽となっている。

快男児ライナーによる、胸のすくような快演。
いやはや、実に素晴らしい演奏であります。