ロストロポーヴィチ&パリ管による≪シェエラザード≫を聴いて
ロストロポーヴィッチ&パリ管によるR=コルサコフの≪シェエラザード≫(1974年録音)を聴いてみました。
卓越したチェリストであったロストロポーヴィチが、メジャーレーベルに指揮者としての録音を開始したのは1970年頃だったのではないでしょうか。それから数年しか経っていない時期に制作されたこの音盤は、指揮者としてのレコーディングの最初期のものと言えます。
なお、生年は1927年になりますので、この音盤は、ロストロポーヴィチが47歳であった時の記録。そのようなこともあり、壮年期の、覇気の漲っている演奏になっているように思えます。更に言えば、表現意欲の旺盛な演奏であるとも言えそう。
そう、とても濃厚な演奏となっているのであります。壮麗で、めくるめくような音楽世界が広がっている。
まずもって、冒頭部分からして、非常に物々しい音楽となっています。
テンポは異常なまでに遅い。と言いますか、一つ一つの音の長さを十二分に引き延ばしながら、噛んで含めるような喋り方で、この音楽絵巻が開始される。そのような冒頭部分となっているのです。
しかも、重心を低く採りながらの音楽づくりとなっていて、聴く者の腹にズシリと響き渡る。それでいて、金管楽器群の吹き方は凄絶であり、聴く者の脳天を突き刺すような音楽となっている。
この冒頭部分だけでも、途轍もなく個性的であり、ロストロポーヴィチの表現意欲の大きさを痛切に感じ取ることができるのですが、その冒頭部分に象徴されているように、全体的に何ともいかめしくて物々しい演奏となっています。そのうえで、生命力に溢れていて、情熱的で、めくるめくような音楽が展開されている。ドラマティックでスリリングでもある(とりわけ、最終楽章が何ともスリリング!!)。切々とした哀愁を感じさせてくれもする(特に、第2,3楽章)。
壮麗な音楽づくりであり、外連味タップリな演奏であるとも言えましょう。それでいて、華麗で絢爛豪華な世界のみを追い求めた演奏ではなく、地に足の着いた演奏ぶりをベースとしながら、骨太な音楽が奏で上げられている。そのような中に、華美になり過ぎない範囲でパリ管ならではの色彩感のある響きが加えられているのがまた、なんとも嬉しいところであります。
なるほど、個性的な演奏ぶりでありますが、じっくりと耳を傾けながら聴き進めてゆくうちに、この作品の魅力を存分に味わっている自分を見出すことができる。そのような体験のできる素敵な演奏であると思います。
なお、余談ではありますが、ジャケットのシャガールの絵がまた、この音盤に大きな魅力を添えてくれているように思います。