マイケル・ティルソン・トーマス(MTT)&サンフランシスコ響によるベルリオーズの≪幻想≫を聴いて
マイケル・ティルソン・トーマス(MTT)&サンフランシスコ響によるベルリオーズの≪幻想≫(1997年録音)を聴いてみました。
図書館で借りたCDでの鑑賞になります。
MTTならではの、繊細な演奏が繰り広げられています。抒情性に溢れている。キリっとした表情をしていて、折り目正しくて、格調高くもある。
情念が渦巻いているような音楽というよりも、もっと多感な音楽になっていると言えましょう。傷心や、憂いや、儚さといったようなものが、クッキリと聞こえてくる演奏となっている。
なるほど、≪幻想≫という曲には、そのような性格も多分に含まれていましょう。しかしながら、このような側面をクローズアップさせた演奏というのは、決して多くないように思えます。それだけに、なんともユニークな≪幻想≫となっている。
全体的に、抑制の効いた演奏が展開されている。であるだけに、聴いていてスリリングを覚えるということは殆どありません。その代りに、細部まで丹念に磨き上げられた音楽が鳴り響くこととなっている。響きからは優美さが感じられもする。そして、詩情豊かな音楽となっている。
それでいて、決して大人しい演奏になっている訳ではありません。音楽は豊かに息づいていて、十分に生気を帯びている。その辺りのバランスの良さに、MTTの音楽センスの高さを感じ取ることができる。
更には、最終楽章の最後の部分などは、さすがに激情的になっています。それでいて、単なるお祭り騒ぎになるようなことはなく、キリっと引き締まった演奏が展開されている。
独特の魅力を宿していて、かつ、聴き応え十分な≪幻想≫。MTTの美質がクッキリと表されているとも言いたい。
なんとも素敵な≪幻想≫であります。