セル&クリーヴランド管によるドヴォルザークの≪スラヴ舞曲集≫を聴いて
セル&クリーヴランド管によるドヴォルザークの≪スラヴ舞曲集≫全16曲(1963-65年録音)を聴いてみました。
なんと生気に富んでいる演奏なのでありましょう。
なるほど、セルらしく、キリリと引き締まった音楽になっています。そして、克明で精緻な演奏となっています。それでいて、冷血さとは対極にある、隅々にまで血の通った音楽が奏で上げられています。
無駄を一切排し、高潔な音楽づくりが為されているのは確かでありましょう。磨き上げが頗る丹念でもある。更には、奏で上げられている音のどれもこれもが、本来あるべき姿で、あるべき性格が与えられながら鳴り響いていると言いたい。
そのようなうえで、その裏側には「音楽への情熱」が迸っています。
作品が持っている息遣いに合わせながら、テンポの自在に伸縮させ、時に、極めてロマンティックな表情を見せている。随所に弾力性を持たせた音楽づくりが示されていて、音楽があちこちで弾け飛んでもいる。或いは、曲想に応じて、哀愁の色で染め上げられた音楽が奏で上げられている。切々たる思いを込めながら、タップリと歌い抜いてゆく場面もそこここにある。それらが、ごくごく自然に、そして、なんの誇張もなく示されてゆく。
そう、ここで鳴り響いている音楽は、実に生き生きと、かつ、しなやかに息づいていて、柔軟性に富んだ演奏となっているのであります。
(この辺りの印象は、セルによるライヴ録音を聴くとより一層鮮明に感じられます。例えば、1969年のザルツブルク音楽祭での、ウィーン・フィルとのオール・ベートーヴェン・プログラムなどは、その最たるものだと言えましょう。)
そんなこんなの演奏ぶりが、舞曲集としてのこの作品の音楽世界に、誠に似つかわしい。しかも、ローカル色を前面に出しているというよりも、洗練味を帯びていて、インターナショナルな音楽表現が為されていると思えるのですが、愉悦感や郷愁が十二分に表されたものとなっているのが、なんとも素晴らしいところ。とても尊いとも言えそう。
これはもう、全編を通じて、ピュアな美しさが横溢している演奏であると言えましょう。更には、音楽に必要なものは全て揃っていて、不要なものは一切含まれていない、とも言いたい。
なんと見事な演奏なのでありましょう。この頗るチャーミングな曲集の魅力を、あますことなく味わうことのできる演奏となっている。そして、実に味わい深い。
セルの至芸を堪能することのできる、なんとも素敵な≪スラヴ舞曲集≫であります。