ギレリス&ザンデルリンク&レニングラード・フィルによるベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を聴いて

ギレリス&ザンデルリンク&レニングラード・フィルによるベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番(1957年録音)を聴いてみました。

ギレリスにしましても、ザンデルリンクにしましても、毅然とした演奏を繰り広げてくれています。キリッと引き締まった演奏となっている。粘り気といったものが、殆ど感じられない。そう、基本的には、硬質な演奏だと言えそう。
それでいて、充分にロマンティックでもあります。
例えば、ギレリスのピアノに対してしばしば称される「鋼鉄のタッチ」といったようなものは、ここでは殆ど感じられない。なるほど、硬質な肌合いをしてはいるのですが、まろやかさが伴ってもいる。ただ単に強靭な音楽を追求しているのではなく、繊細でニュアンスの豊かな音楽が奏で上げられているのであります。
似たようなことが、ザンデルリンクについても当てはまりましょう。凝縮度が高く、厳格な演奏ぶりでありつつも、しなやかさを備えたものとなっている。
テンポは速め。機敏であり、一気呵成に音楽を奏で上げてゆくような、覇気のある演奏となってはいますが、無為に弾き飛ばすようなところは微塵もありません。丹念で、端正で、瑞々しい音楽が奏で上げられている。
そのような演奏ぶりによって、泰然自若としていて、ダンディズムのようなものが漂いつつも、可憐でもある音楽が鳴り響くこととなっています。それがまた、この作品の性格に相応しいと言えそう。

独特な魅力を湛えている演奏。そのうえで、純美な音楽世界が広がっている演奏だとも言いたい。そんな、なんとも見事な、そして、素敵な演奏であります。