クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィルによるブルックナーの交響曲第5番を聴いて
クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィルによるブルックナーの交響曲第5番(1956年録音)を聴いてみました。
ブルックナーを演奏するにあたって、原典版を使うことのまずないクナは、ここではシャルクが改訂した版を採用しています。
(シャルク版による交響曲第5番と言えば、2017年にロジェストヴェンスキー&読響による演奏会で採り上げられて大きな話題となったのが記憶に新しい。)
まずは、そのシャルク版についてですが、随所で違和感の残る版となっています。オーケストレーションが原典版とは異なる箇所が多く(原典版に比べると、木管楽器に旋律が割り当てられるケースが多い)、かつ、楽想のカットが至るところでなされている。そのため、居心地が悪く、背中がムズムズ痒くなるよう造りになっています。ブルックナーの神秘性や敬虔な雰囲気も、薄められているように感じられる。
しかしながら、そのような中でも、やはりこれはクナによるブルックナー以外の何ものでもないと思わせてくれるところは流石。テンポは概して速めで、クナにしてはサラサラと流れてゆく部分が多いのですが、巨大な音楽がここにはある。しかも、第2楽章では、悠然とした歩みが刻まれている。そして、最終楽章の最後では、シンバルとトライアングルが派手に打ち鳴らされて(原典版では、このようなオーケストレーションは施されていません)、壮麗なクライマックスが築かれる。
シャルク版という「或る種の珍品」と、クナによるブルックナーの素晴らしさとを同時に味わうことのできる貴重盤。更に言えば、破格の存在感を持っている貴重盤。
そんなふうな表現が思い浮かんでくる音盤であります。