クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィルによる≪くるみ割り人形≫組曲を聴いて

クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィルによるチャイコフスキーの≪くるみ割り人形≫組曲(1960年録音)を聴いてみました。

クナッパーツブッシュと言えば、大曲志向で、ワーグナーとブルックナーでの巨大な音楽世界を構築してゆく演奏を思い出すリスナーが多いように思えます。その一方で、≪くるみ割り人形≫のような、ポピュラー名曲と呼べるような作品にも、大いなる愛情を注いでいた指揮者でありました。
さて、ここでの≪くるみ割り人形≫は、と言いますと、なかなかにチャーミングで、味わい深い演奏となっています。
なるほど、クナッパーツブッシュならではの、ちょっとゴツゴツとした質感を持っている演奏ではあります。と言いつつも、それほどまでに愚直さが前面に押し出されている訳ではなく、思いのほか流麗さの感じられる演奏となっている。可憐さが感じられもする。
とは言え、そこはやはりクナッパーツブッシュのこと。例えば、「トレパーク」などでは、かなり巨大な音楽となっています。それはもう、音楽全体が大きな塊となって突き進んでゆく、といった感じ。また、「中国の踊り(お茶の精の踊り)」も、軽妙な音楽というよりは、地響きを立てながら鳴り響く音楽となっている。似たようなことが、「行進曲」についても当てはまり、一歩一歩踏みしめるような歩みをしていて、ある種の重量感が与えられている。それらは、このメルヘンの世界を描いたバレエ音楽を面白がって演奏しているクナッパーツブッシュの姿を、映し出してくれているかのよう。また、そういった演奏ぶりが、この演奏にコクを与えてくれているように思えます。更には、この演奏を「嚙めば嚙むほど味が出る」といったものにしてくれているとも言えそう。
そのようなクナッパーツブッシュの音楽づくりに対して、ウィーン・フィルが、艶やかな、そして頗るコクのある響きを添えてくれていて、この演奏に感覚的な美しさが与えられています。「花のワルツ」では、誠に優美な音楽となっている。そのようなウィーン・フィルに対して、クナが所々で見栄を切ったり、力こぶを見せてくれたりするのがまた、とても奥ゆかしく感じられたりします。

ユニークな魅力に包まれている、素敵な素敵な演奏であると思います。
なお、この音盤が、クナッパーツブッシュが最後にDECCAに録音したものとなっているようです。