ショルティ&シカゴ響によるリストの≪ファウスト交響曲≫を聴いて
ショルティ&シカゴ響によるリストの≪ファウスト交響曲≫(1986年録音)を聴いてみました。
ショルティ&シカゴ響というコンビは、強靭で剛毅な音楽づくりに特徴があるように思います。もっと言えば、剛腕だと評しても良いくらい。或いは、冷徹な音楽づくりを基調としているとも言えそう。
そのような中で、1980年代の前半、ショルティの演奏スタイルに変化が起きているように思っています。基本的なアプローチはそのままに、柔軟性が加えられてきたように思われる。暖かみを帯びるようになり、しなやかさも備わってきたようにも感じられる。
そのことを私が如実に感じたのは、マーラーの交響曲第4番(1983年録音)を聴いたときでありました。≪新世界より≫(こちらのほうがマーラーの4番よりも数ヶ月ほど録音が早いですが)や、メンデルスゾーンの≪スコットランド≫≪イタリア≫辺りでも、そのような兆候が感じられます。
「ショルティも一皮むけたかな」などと思ったものでありました。
そのような変化を決定的にしたのが、この≪ファウスト交響曲≫ではないだろうか、と思っております。
知情のバランスが絶妙な演奏となっています。硬派な演奏ぶりで、一本気に突き進もうとしていながらも、しなやかさや暖かさや抒情性が備わってもいる。冷徹なようでいて、細部にまで血が通っている。
造形は、もうこれ以上は磨き上げようがないほどに整っています。キリリと引き締まっていて、見事なまでに均整が取れている。ドラマティックでダイナミックでありつつも、純音楽的な美しさを湛えている。
そのうえで、鋼鉄のように強靭でもある。とても剛毅な音楽が鳴り響いています。
それでいながら、全く威圧的ではない。ましてや、無機的な音楽には微塵もなっていない。きめ細やかで、人情味に溢れていて、デリケートで、音楽から暖かさが滲み出ている。
更には、この長大な作品(この音盤では74分ほどが費やされています)を一気に聴かせてくれ、かつ、作品の魅力を余すところなく提示してくれている。
ショルティのことを再認識させてくれる音盤だとも言えるのではないでしょうか。しかも、なんとも見事な演奏が繰り広げられている。
≪ファウスト交響曲≫はあまりメジャーな作品だと言えないかもしれませんが、この作品の魅力を認識して頂けるのではないだろうかということも含めて、多くの音楽愛好家に聴いてもらいたい、魅力たっぷりな1枚であります。