ブニアティシヴィリ&パーヴォ・ヤルヴィ&チェコ・フィルによるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を聴いて
ブニアティシヴィリ&パーヴォ・ヤルヴィ&チェコ・フィルによるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(2016年11月録音)を聴いてみました。
図書館で借りてきたCDでの鑑賞になります。
ブニアティシヴィリとパーヴォによる共演は、2016年の2月、N響とのシューマンのピアノ協奏曲を実演で聴いています。そのときのブニアティシヴィリに対する印象は、あまり良いものではありませんでした。
感受性が豊かなピアニストであることはよく理解ができたのですが、彼女の感受性に、シューマンの作品が持ちこたえ切れていないという印象を抱いたのであります。あまりに起伏が激し過ぎる。弱音を使い過ぎている。不自然に音楽を伸縮させ過ぎている。
その奔放な演奏ぶりが、シューマンの音楽には似つかわしくないと思えてならなかった。そして、チャイコフスキーやラフマニノフならば、彼女の音楽性に適しているのではないだろうか、とも思ったものでした。
さて、そのシューマンの9ヶ月後に録音されたここでのラフマニノフはと言いますと、それはそれは見事で魅惑的な演奏が繰り広げられています。
シューマンでも感じたように、弱音を多用した演奏となっています。それは、訥々と語り掛けてくるかのように始められる冒頭の場面からしてそう。このような開始であるだけに、その印象が私の脳裏に強烈に刻み込まれることとなる。
と言いつつも、弱音に頼った演奏ではありません。むしろ、随所で強靭なタッチを繰り出してくる。また、煽情的でもある。そのようなこともあり、演奏全体がエモーショナルな色を帯びることになる。
しかも、全体的に切れ味の鋭い演奏となっている。その一方で、ふくよかさや雄大さを持ってもいる。雄大であるという点では、最終楽章が白眉なのではないでしょうか。クライマックスでは、大きな昂揚感が築かれることとなっている。
そんなこんなで、シューマンでのときと同様に起伏は頗る大きいのですが、それがドラマティックで、かつ、センチメンタルな感興を喚起させてくれることとなっています。
そのようなピアノ独奏に対して、パーヴォもまた鋭敏かつダイナミックな音楽を奏で上げてゆき、ブニアティシヴィリをしっかりとサポートしてくれている。
ブニアティシヴィリの美質と作品の性格とが幸福な形で融合された、なんとも素敵な演奏であります。