シューベルトの誕生日に、セル&クリーヴランド管による≪ザ・グレート≫(1970年録音 EMI盤)を聴いて
今日はシューベルトの誕生日。この日には、極力、≪ザ・グレート≫を聴くようにしています。そこで今年は、セル&クリーヴランド管による演奏(1970年4月録音)で聴いてみました。
当盤は、セルが73歳で急逝することとなった3ヶ月前の録音になります。伝説となっているクリーヴランド管との初来日で、我が国を訪れる半月ほど前の録音にもなります。
さて、ここでの演奏はと言いますと、セルらしい、キリッと引き締まったものとなっています。そのうえで、この作品に相応しい宏大さをキッチリと描き出してくれている。硬質な肌触りであるのに、しなやかさが備わってもいる。このような両極端と思えそうな性格を、なんの矛盾もなく併せ持たせることができているのが、いかにもセルらしいところだと言えましょう。
更に言えば、冷静かつ緻密に音楽を進めながら、充分にホットであって、逞しさに満ちてもいる。そのために、凛とした表情と、生き生きとした表情とを併せ持つこととなってもいる。
そんなこんなによって、この作品の実像が、なんの誇張もなくクッキリと浮かび上がってくる。しかも、純美な姿をしながら。
セルの音楽づくりは、「作品に何も足さない、作品から何も引かない」ものだと思えてならないのですが、そのようなことを如実に感じ取ることのできる演奏だと言えるのではないでしょうか。そこに、セルの篤実さや、音楽への責任感の大きさが感じられもします。
(なおかつ、そのようなことを実現させるに十分な技能を身に付けていたのだということを痛感させられる。また、そのような技能を身に付ける才を持っていたこと、或いは、そういった技能を身に付けようという思いが殊のほか強く、そのための修練を自らに課すことに一途であった結果なのであろうこと、などにも思いを巡らすこととなる。)
いずれにしましても、この≪ザ・グレート≫は、セルの素晴らしさと、作品の魅力の双方とを存分に味わうことのできる、なんとも見事な演奏であります。