ケルテス&ウィーン・フィルによるブラームスの交響曲第1番を聴いて
ケルテス&ウィーン・フィルによるブラームスの交響曲第1番(1973年録音)を聴いてみました。
充実感タップリで、かつ、頗るチャーミングな演奏となっています。端正な佇まいの中に、複層的な魅力を湛えた音楽が奏で上げられている。そんなふうにも言えそう。
ここでの演奏ぶりを一言で表すならば、「バランス感覚に優れた演奏」ということになるのではないでしょうか。
雄大でいて優美。重厚でありながら、しなやか。おしつけがましさは全くなく、かつ、変に深刻ぶった素振りを見せるようなこともない音楽づくりを基調としながら、この作品が備えている生命力を余すところなく解放してくれた演奏を繰り広げてくれています。局面ごとでの音楽の伸縮も、実に鮮やか。そして、極めて自然。息遣いが誠に豊かでもある。
更には、清潔感に満ちていて、颯爽とした演奏となっている。しかも、ブラームスの音楽に特有の「うねり」にも過不足はない。十分なる熱気が備わってもいる。それは、「涼やかな熱さ」といったところでありましょうか。そのような空気感がまた、この演奏に独特の魅力を与えてくれています。過剰に重厚な音楽が鳴り響いている訳ではないのですが、充実感タップリで、コクのある音楽となってもいる。
そのような演奏ぶりによって、誇張の全くない形でこの作品の素晴らしさを味わい尽くすことのできる音楽が鳴り響くこととなっている。
そのうえで、ここでも、ウィーン・フィルのまろやかな美音と、しなやかな演奏ぶりとが、この演奏に大きな魅力を添えてくれているのが、実に嬉しい。
なんとも見事で、味わい深くて、魅惑的な演奏。演奏のあちこちから、ケルテスの音楽センスの豊かさが滲み出ているとも言いたい。
音楽を聴く歓びを心の底から味わうことのできる、素敵な素敵な演奏であります。