イッセルシュテット&ウィーン・フィルによるベートーヴェンの≪田園≫を聴いて

イッセルシュテット&ウィーン・フィルによるベートーヴェンの交響曲全集から≪田園≫(1967年録音)を聴いてみました。

ベートーヴェンの生誕200年に向けて制作されたこの全集は、今でも根強い人気を誇っていると言えそうですが、その中でも≪田園≫は、ひときわ高い評価を受け続けているように思えます。
その演奏はと言いますと、実に優美で、かつ、清々しくて爽やかなものとなっています。
しかも、キリッとした佇まいの感じられる演奏ぶりが示されている。篤実にして、端正でもある。それらはまさに、イッセルシュテットの美質の現れなのでありましょう。
そこに、ウィーン・フィルの艶やかで美しい音が加わることによって、音楽全体が実に典雅な雰囲気を持つこととなっています。そして、暖かみがあって、かつ、明澄な音楽世界が広がることとなっている。とても気高くもある。
≪田園≫に備わっていて欲しい、清冽で、伸びやかで、穏やかで、のどかでいて、浮き立つような愉悦感に満ちていて、といった音楽表現を、過不足なく持ち合わせている演奏。しかも、実に生き生きとしていて、瑞々しい。望郷の念と言いますか、懐かしさが込み上げてくる演奏となってもいる。
そのうえで、聴き手を幸福感で包み込んでくれる演奏となっている。
ウィーン・フィルをして初めて成し遂げられるような演奏だと言えましょうが、イッセルシュテットの実直な音楽づくりが、ウィーン・フィルの美質を遺憾なく引き出しているとも言いたい。

このような演奏こそ、エバーグリーンと呼ぶに相応しい。
惚れ惚れするほどに見事な、そして、魅惑的な演奏であります。