兵庫県立芸術文化センターでの佐渡裕さんプロデュースオペラ2026 ≪カルメン≫(大半の役を日本人歌手で固めた組)を観劇して
昨日に引き続いて、兵庫芸術文化センターでの佐渡裕さんプロデュースオペラ、≪カルメン≫を観劇してきました。
本年の≪カルメン≫は、ダブルキャストによって全8回の公演が組まれている中、本日はその第4回目。昨日は、主役級を外国人歌手で固めた組によって上演され、今日は、大半の役を日本人歌手で固めた組による公演でありました。
なお、キャストや演出者やにつきましては、お手数ですが、添付の写真をご参照ください。

主役級を歌う4人の歌手は、ここ最近の佐渡さんプロデュースオペラに招かれている常連で固められています。
その中でも特に、タイトルロールを歌う高野さんに注目していました。彼女は、2023年の≪ドン・ジョヴァンニ≫でのドンナ・アンナと、2024年の≪蝶々夫人≫のタイトルロールを聴いています。その両者で、素直にして端正で、的確な歌唱を繰り広げてくれたものでした。更には、2025年度全国共同制作オペラとして上演された≪愛の妙薬≫の京都公演でアディーナを歌っていますが、そちらでも率直で端正で、しかも、抒情性に富んだ歌唱を繰り広げてくれていました。そんな高野さんがカルメンをどのように歌うのか、とても気になるところでありました。
ドン・ホセを歌うロハスと、ミカエラに扮する迫田さんも、2024年の≪蝶々夫人≫で聴いています。
ピンカートンを歌ったロハスは、リリックな声をベースにしながら輝かしい歌を紡ぎ上げてゆく、といった歌いぶりで、その範囲では聴き応え十分だった。とは言うものの、ヒロイックで燦然たる陽が差し込んでくる、といった歌唱だったとは言い切れなかったのが、少々残念でありました。
一方で迫田さんは、15歳の少女の無垢で可憐な性格付けから、一途であり、かつ、決然たる意志を持って自らの行動を決してゆく、といった歌唱表現に至るまで、蝶々さんを見事に演じ切っていて、圧巻の歌唱を繰り広げてくれていました。蝶々さんへの共感の深さが窺えもした。そんな迫田さんのことです、ミカエラでも、無垢な歌を聞かせてくれることだろうと、大きな期待を寄せていました。
また、エスカミーリョを演ずる髙田さんは、昨年の≪さまよえるオランダ人≫のタイトルロールと、2024年の≪蝶々夫人≫のシャープレスに出演しており、その両役で張りのある声を駆使しながら毅然とした歌を披露してくれていた。そんな髙田さんにとっては、エスカミーリョはピッタリの役だと言えましょう。
そんな独唱陣に対する関心と共に、佐渡さんによる指揮が、今日はどんなふうになるのだろうということも、大いに気になるところでありました。昨日は、感心させられたところも多々ありましたが、納得のいかないところも多々あった。
佐渡さんは、ムラっ気の大きな指揮者なのではないだろうか、と看做しています。ということで、昨日とは違う音楽づくりを見せてくれるかもしれない。その辺りに意識を向けながら聴き進んできたいと思いつつ、観劇に臨んだものでした。
なお、昨日は左サイドの席からの鑑賞でしたが、本日は右サイドから。昨日、観づらかったところが観えたり、違う観え方がしたり、といったこともありましょう。その点も、楽しみの一つでありました。
それでは、本日の公演をどのように観劇したのかについて、書いてゆくことに致します。

佐渡さんの指揮、昨日よりも集中度が高くて、かつ、より一層雄渾になっていたように思えました。また、第1幕のホセとミカエラの二重唱での、ミカエラがホセに口づけするシーンでは、音楽に膨らみと感興の昂りが加えられていて、官能味が感じられた。昨日も、このように演ったのだろうか。1日で、その印象が大きく変わったことに驚いたものでした。但し、この口づけのシーン、ここの部分だけ局所的にテンポを煽りながら、音楽が湧き上がってくるように奏でてくれたならば、もっと官能味が増したように思えたものでした。
また、昨日気になった箇所としましては、第2幕での密輸団による新しい仕事の段取りを協議するシーンでは、あまり乱暴な音楽になっていなかった。更には、レチタティーヴォでオケを大音量で「ジャーン」と鳴らすことも、今日は控えていたよう。これらも、大いに結構でした。
但し、第3幕への間奏曲の直後の密輸団による重唱は、昨日と変わらず、かなり強めに歌わせていて、軽妙さが微塵も出ていなかった。本日の佐渡さんによる音楽づくりで、最も賛同できなかったのが、ここの箇所でありました。
とは言うものの、総じて逞しい生命力を備えている、充実した音楽が鳴り響いていました。例えば、第2幕の幕尻などでは、昂揚感の高い演奏となっていた。また、エスカミーリョの登場による「闘牛士の歌」では、勇壮かつ輝かしい音楽が奏で上げられていた。そのような美点が、率直な形で現れていたとも言いたい。
全体的に、佐渡さんによる音楽づくり、オペラティックな感興にも不足がなかったように思えたものでした。そして、劇全体を、グッと手綱を締めながら、ドラマティックに纏め上げてくれていたと言いたい。そう、劇が散漫になるようなことは皆無だったのであります。そのこともあり、豪快にして、壮烈なドラマが展開していった。
見事な指揮でありました。
一方、独唱陣で最も感心させられたのは、髙田さんによるエスカミーリョでありました。
これまでの佐渡さんオペラにおける歌唱と同様に、威勢が良くて、張りがあって、毅然とした歌を繰り広げてくれていた。昨日のアルドゥイーニのように、上滑りするようなことが皆無だったことも嬉しい限り。
もっと言えば、大音声による、勇ましさが前面に押し出された歌となっていた。放胆だったとも言いたい。そのような歌ぶりが、エスカミーリョにピッタリでありました。
しかも、粗さがなかった。伸びやかで、滑らかで、朗々とした歌となっており、その点も実に好ましかった。
次いで惹かれたのは、ロハスによるドン・ホセ。
張りのある力強い歌唱で、立派でありました。ピンカートンでの印象とは異なり、陽が燦然と差し込んでくる、といった輝かしさを備えてもいた。しかしながら、昨日のアローニカのような凛々しさや格調の高さには乏しかった。とは言いましても、「花の歌」や、その後のカルメンとの口論では、切迫感や哀切感が滲んでいた。更には、第3幕の幕尻での焦燥感にも、グッと胸を打たれました。
タイトルロールの高野さんは、ソプラノによる歌唱ということで、中低音でのドスはどうしても効いてこなくて、情念の深さといったものも乏しくなる。そのような中で、切迫感のある歌を聞かせてくれているところに惹かれたものでした。
なるほど、妖艶さの殆ど感じられないカルメンとなっていました。重量感のある歌いぶりだった、とも言い難い。しかしながら、決して存在感の薄いタイトルロールになっていた訳ではありません。決然とした意志の強さが感じられた。そのこともあり、最終幕の幕尻でのホセとの二重唱でも、押し負けるようなことは全くなかった。
あまりカルメンらしくない歌だったとも言えそうですが、声楽的には立派で魅力的な歌だったと言いたい。
迫田さんによるミカエラは、あまり可憐さが前面に出た歌にはなっていなかった。思いの外、恰幅の良さを秘めていたミカエラでありました。であるからこそ、こちらでも意志の強さが感じられたものでした。
最後に演出についてになりますが、最終幕でのカルメンとホセの二重唱は、昨日よりも両者が向かい合って歌を展開することが多かったように思われました。やはり、このほうが、言い争いの末にホセがカルメンを刺し殺してしまう、という展開への納得性が強くなると思えたものでした。
縷々書いてきましたが、全体的に、昨日よりも満足度の高い公演でありました。
とは言うものの、この2日間で、最も強い感銘を受けたのは、昨日聴いたアローニカによるドン・ホセでありました。

(カーテンコールの様子になります)





