ブロムシュテット&シュターツカペレ・ドレスデンによるグリーグの≪ペール・ギュント≫全曲を聴いて
ブロムシュテット&シュターツカペレ・ドレスデン(SKD)によるグリーグの≪ペール・ギュント≫全曲(1977年録音)を聴いてみました。
録音の時期は、このコンビがドイツ・シャルプラッテンにベートーヴェンの交響曲全集を制作していた頃と重なります。
さて、ここでの演奏はと言えば、堅実な音楽づくりに支えられた、端正なものとなっています。こけおどしな表現は一切なく、劇音楽としてのドラマ性を追求するようなスタイルを採るようなこともなく(それは、全曲中、最もドラマティックな音楽となっている「ペール・ギュントの帰郷」においても然り)、純粋なる音楽美を追い求めてゆく。そんなふうに言えそうな演奏となっている。
と言いつつも、力感に不足はありません。活力の漲っている演奏が展開されている。そして、逞しい生命力を宿していて、生き生きとした表情を湛えている。息遣いが自然で、ふくよかでもある。しかも、抒情的な美しさに満ちている。それは、凛とした美しさだとも言いたい。
そこに、SKDの、キリリとしていて、清潔感に溢れる美音が添えられてゆく。
そのような方向性による演奏が築き上げている音楽世界、それは実に清澄なもの。全ての音が、澄み切っています。冴え冴えとしています。そして、響きも、音楽の佇まいも、誠に美しい。底光りするような輝きが発せられている。
聴いていて夢見心地に誘われる、なんとも素敵な演奏であります。
なお、ブロムシュテットは、この演奏から約10年が経った1988年に、サンフランシスコ響とも同曲の全曲盤を録音しており、新盤のほうが広く知られているのではないでしょうか。収録されているナンバーの数も、新盤のほうが増えている。
ブロムシュテットの音楽づくりのみで考えると、新盤のほうが、精彩を放つ演奏ぶりになっていて、かつ風格豊かだと思えますが、オーケストラの魅力で言えば、旧盤のSKDのほうに惹かれます。更に言えば、新盤は現実味を帯びた演奏になっていて、旧盤は夢幻的な世界が広がっている。これらはあくまでも、両盤を比較したうえでの話なのですが。
かく言いながらも、新旧盤ともに、素敵な演奏であることには違いないと言えましょう。