ペライア&ハイティンク&コンセルトヘボウ管によるベートーヴェンの≪皇帝≫を聴いて
ペライア&ハイティンク&コンセルトヘボウ管によるベートーヴェンの≪皇帝≫(1986年録音)を聴いてみました。
バランス感覚に優れた演奏。そんなふうに言えようかと思います。剛柔のバランスが絶妙なのであります。
まずもって、ハイティンク&コンセルトヘボウ管が奏で上げてくれている音楽が、なんとも素晴らしい。安定感たっぷりで、充実し切っています。
どっしりと構えた演奏ぶりでありますが、決して重苦しくない。作品が求めているエネルギーの放出が、しっかりとなされている。慌てず騒がずといった音楽づくりでありつつ、作品が要求している覇気や熱気や活力やが、「最適な」形で描き尽くされている。更に言えば、全ての場面での重心の置き方や、運動の方向付けや、音楽に掛ける圧力の加減なども、まさに最適だと言いたい。
そのようなオーケストラ演奏を背景にしながら、ペライアは、持ち前の抒情味の豊かさをベースにしつつ、この作品に相応しい壮麗さも加えた演奏を繰り広げてゆく。その演奏ぶりは、誠に美しい。それは、音色や響きにしても、音楽が示している佇まいにしても。
タッチは繊細で、澄み切った音色たるや、素晴らしくチャーミングであります。優美にして、可憐で清楚な雰囲気が漂ってくる。肌触りが柔らかで、威圧的な素振りは皆無。
それでいて、決してこじんまりとしたピアノ演奏になっている訳ではありません。しっかりとしたスケール感がある。絢爛豪華な味わいにも不足はない。これはもう、ペライアの音楽性の高さの賜物だと言えましょう。
前のめりにならずにリラックスした気分で聴くことができる演奏でありながら、音楽的な充実感を存分に味わうことのできる、誠に素敵な演奏であります。