ジェシー・ノーマンによるシューマンの≪女の愛と生涯≫を聴いて

ノーマン&ゲイジによるシューマンの≪女の愛と生涯≫(1975年録音)を聴いてみました。

ノーマンの歌声には、独特なものがあると思えます。それは、アルトからソプラノまでをムラなくカバーすることの可能な音域の広さもさることながら、声質に独特なものが感じられるからに他なりません。すなわち、深みがありつつ、清らかな響きを持っている。しかも、豊潤で、陰影が濃くて、それでいて、可愛らしい性質を帯びてもいる。
そのような声を駆使しながらの歌には、無限大の幅広さを持つニュアンスが秘められていると言えるのではないでしょうか。

さて、ここでの≪女の愛と生涯≫も、そのようなノーマンの美質がよく生かされている歌になっていると言えましょう。基本的に太めでガッシリとした音楽づくりなのですが、重苦しさは全く無い。むしろ、清澄な音楽となっている。
そのうえで、感情の幅が実に広くもある。そう、主人公の喜びや寂寥感や絶望やが、ドラマティックに描かれてゆくのであります。第3曲目などでは、無邪気な可憐さが感じられもする。第5曲目などは、実に伸びやかな歌となってもいる。
更に言えば、声量も豊かなのですが、それをひけらかすようなところが殆ど感じられない。ひたすらに作品に奉仕する為のみに、ノーマンの豊かな声は使われている。私には、そのようにしか思えません。そして、声量が豊かであることが、音楽に深みや拡がり感を与えてくれることに繋がっている。清らかさの中に、暖かさやふくよかさが備わっている歌となることにも貢献しているように思える。最終曲の絶望感には、大きな切迫感が添えられてゆく。

いやはや、なんとも素晴らしく、そして、魅力的な歌唱であります。