ハイティンク&ロンドン・フィルによるショスタコーヴィチの交響曲第9番を聴いて

ハイティンク&ロンドン・フィルによるショスタコーヴィチの交響曲第9番(1979年録音)を聴いてみました。

ハイティンクと言えば、穏健な演奏をする指揮者だとのイメージが強いのではないでしょうか。
なるほど、ハイティンクによる演奏の多くは、刺激的であったりスリリングであったり、いったものとは縁遠いものだと言えるかもしれません。しかしながら、真摯な音楽づくりをベースにしながら、作品が宿しいている生命力やエネルギーを適切に解放しながら、充分に力感に溢れている演奏を繰り広げてくれることの多かった指揮者だったと考えています。このショスタコーヴィチの9番などは、その代表例と言えるのではないでしょうか。いや、ハイティンクによる音盤の中では、随分とスリリングな要素を含んでいる演奏だと思えます。

総じて言えること、それは、誠実さの滲み出ている演奏であるということ。誠に堅実で真摯な演奏ぶりであります。それでいて、力感にも溢れている演奏となっている。そして、ピュアな美しさに満ちている。それは、響きにおいても、音楽の佇まいにおいても。
しかも、急速楽章では、スピード感に溢れた演奏が繰り広げられている。そのために、強い切迫感を秘めた音楽となっている。そう、実にスリリングな音楽世界が広がっているのであります。適度な切れ味の鋭さが感じられもする。
そんなこんなのうえで、この演奏で貫かれていること、それは、「純音楽」に相対しているのだという姿勢だと言えましょう。シニカルな性格や、ユーモラスな表情が強調されるようなことはない。あるがままの「音楽」が、誠実に再現されているのであります。しかも、実に生き生きとした形で。そして、充実感いっぱいに。
このようなスタイルの演奏、私は大好きであります。

実に立派で、聴き応えの十分な、素晴らしい演奏であります。