ブロムシュテット&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管によるシューベルトの≪未完成≫と≪ザ・グレート≫を聴いて
ブロムシュテット&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管によるシューベルトの≪未完成≫と≪ザ・グレート≫(2021年録音)を聴いてみました。
ブロムシュテット(1927-)は、7月11日に95歳を迎えていますが、現役として精力的に演奏活動を続けてくれていることには、喜びを感じずにはおれません。そのブロムシュテットが、1998年~2005年までカペルマイスターを、現在は名誉指揮者を務めているゲヴァントハウス管弦楽団を指揮しての最新盤がこちら。
解説書には、当初は聴衆を入れてのライヴ録音としてプランされていたのですが、新型コロナの感性拡大によって、無観客での録音に切り替えられたと書かれています。
なお、DGレーベルへは、2003年にゲヴァントハウス管とサンドストレムとリドホルムの作品を録音していますが、これは2枚目のDGへの録音となります。
国内盤は7/20の発売。7/22にはNML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)で視聴できるようになったようです。そこで、NMLで聴いてみることに。
(NMLに所蔵されているのは輸入盤のようでして、輸入盤のブックレットが添付されています。)
ブロムシュテットの演奏の特徴は、音楽への誠実さと、清潔感溢れる演奏ぶりにあるように思っていますが、ここでのシューベルトも、まさにこれらのことが当てはまる演奏であると言えましょう。
構えたところのない、自然体で、伸びやかな演奏。なんとも清新な音楽が鳴り響いています。そのうえで、作品に備わっている呼吸感や起伏やが、スッキリと、しかも、十全に表されている。それらによって、実に美しい佇まいが示されています。
≪未完成≫は、この作品が持っているデモーニッシュな雰囲気が、大袈裟にならない範囲で表出されている。そう、決しておどろおどろしくなり過ぎない範囲で、重みを持たせている音楽が鳴り響いているのです。と言いつつも、サラサラと流れていっている訳ではない中で、軽やかさや爽やかさの備わっている演奏となっている。何と言いましょうか、爽快感を伴った情念、といったようなものが感じられる。そして、シューベルトならではの抒情性や歌謡性の豊かさもシッカリと表されている。
晴朗な充実感を覚える、そんな≪未完成≫でありました。
≪ザ・グレート≫は、更に肩の力の抜けている演奏となっています。全曲を通じて、やや速めのテンポが採られていて、流れが頗る滑らか。特に、冒頭楽章の序奏部はかなり速めのテンポで、爽快感を伴って音楽が刻まれてゆくのであります。主部に入ると、やや速めといったテンポに落ち着くのですが、爽やかさはそのまま持続。そのうえで、音楽が隆起する場面ではシッカリとした逞しさが与えられてゆく。そのために、必要以上に軽やかなものにならない。そう、この作品が持っている壮麗さも、充分に感じられるのであります(とりわけ、最終楽章において、このことは顕著に感じられた)。そして、輝かしくて、晴れやかな音楽が奏で上げられている。歌謡性にも満ちている。響きが分厚くなり過ぎない範囲でタップリとした充実度の高い音が鳴り響いている。
作品の魅力や偉大さを、等身大に表してくれていた演奏。そんなふうに言えそうです。そして、作品自体が、嬉々とした表情を浮かべているように思えてなりませんでした。
なお、≪未完成≫でも≪ザ・グレート≫でも、全てのリピートが敢行されています。
そのために、後者での演奏時間は62分ほどを要している。しかしながら、「天国的な長さ」といった印象を受けない。その代わりに、リピートが構造的な美しさや充実感をもたらしてくれている。そんなふうに感じられるのでありました。そして、「これが、シューベルトが意図していた構造なのですよ」と語りかけているように思えたものでした。
ブロムシュテットの魅力、そして、≪未完成≫と≪ザ・グレート≫の魅力を、タップリと、しかも伸び伸びとした気分で味わうことのできる、素敵な演奏でありました。
音楽を聴く歓びを満喫し、素晴らしい時間を過ごすことできたことに、感謝感謝であります。