カイルベルト&ベルリン・フィルによるブラームスの交響曲第2番を聴いて

カイルベルト&ベルリン・フィルによるブラームスの交響曲第2番(1960年頃の録音)を聴いてみました。

カイルベルト(1908-1968)は、カラヤンと同年生まれのドイツの指揮者。カラヤンのスマートな演奏ぶりとは対照的に、武骨な演奏ぶりに特徴がある指揮者だと言えるように思います。質実剛健な音楽づくりを基調としながら、骨太で、古雅で朴訥としていて、昔気質な性質を持っていると言いたくなるような演奏を聞かせてくれていました。
その経歴の中で、大きな比重を占めているのがバンベルク響との関係であると言えましょう。カイルベルトは、第二次大戦の最中である1940年に、ドイツ系の音楽家によって編成されプラハに創立されたドイツ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任して活動していました。1945年に第二次大戦が終結すると、プラハからドイツに逃れた同楽団の団員が終結して結成されたのがバンベルク響であり、1949年には気心の知れたカイルベルトが首席指揮者に着任しています。そして、カイルベルトは死去するまで、その任にあった。尚、カイルベルト&バンベルク響のコンビは、1968年に来日しており、その際の音源の幾つかがCD化されています。
また、カイルベルトは単身で1965,66年に来日してN響の指揮台に立っており(1968年のバンベルク響との来日に合わせても、N響に登壇している)、その音源もCD化されています。
かように、今から半世紀ちょっと前は、我が国の音楽愛好家にも非常に近しい存在でありましたが、バイエルン国立歌劇場で≪トリスタンとイゾルデ≫を指揮している時に心臓発作に襲われて急逝しています。

さて、そのようなカイルベルトは、ベルリン・フィルとも密接な関係を築いていまして、例えば、ドイツの国民オペラと言える≪魔弾の射手≫をベルリン・フィルとセッション録音しています。ベルリン・フィルによる≪魔弾の射手≫全曲のセッション録音は、現在もこれが唯一のものとなっています。そんなカイルベルト&ベルリン・フィルによるブラームスの交響曲第2番はと言いますと、カイルベルトが遺してくれた数多くの音盤の中では、異色の演奏であると考えています。
なるほど、他の多くのカイルベルトによる録音で聴くことのできる演奏と同様に、飾り気のない、誠実な演奏ぶりが示されています。その一方で、流麗さや滑らかさも備わっている。そう、決してゴツゴツとした肌触りの演奏なっていないのです。古雅で朴訥とした雰囲気が漂うというよりは、洗練された音楽となっている。
それは、ベルリン・フィルと組んでいるからなのでありましょう。このオーケストラならではの機能性の高さが発揮されていて、その結果として、流暢で、柔軟性や弾力性を有した演奏となっているように思えるのであります。そして、とても艶やかでもある。
そのうえで、なんとも綿密な音楽づくりがなされており、響きには重厚感があり、音楽が存分に鳴り切っていて、充実感に満ちている。安定感があり、かつ、瑞々しくもある。この辺りは、カイルベルトの美質と、ベルリン・フィルの体質とが融合された結果なのでありましょう。
基本的に重めの足取りで進められているのですが、この作品に相応しい快活さも備わった演奏となっています。それでいて、過度に輝かしいという訳ではない。音楽がスマートに纏め上げられているという訳でもない。飾り気のない、気風の良さのようなものが感じられる。この辺りは、カイルベルトならではだと言えそう。
そして、最終楽章の終結部分、ここで築かれる昂揚感がまた凄まじく、メーターを振り切って突き進んでゆくかのようであります。カイルベルトが、このように激して、燃えに燃えた姿勢を見せるのも、珍しいことなのではないでしょうか。

普段とはちょっと違ったカイルベルトの一面を覗くことができる演奏。そのうえで、実に味わい深い演奏になっていると思います。