クナッパーツブッシュ&北ドイツ放送響によるベートーヴェンの交響曲第8番を聴いて
クナッパーツブッシュ&北ドイツ放送響によるベートーヴェンの交響曲第8番(1960年ライヴ)を聴いてみました。
なんと巨大な演奏でありましょうか。この可憐で瀟洒な作品が、威容を誇る大伽藍を仰ぎ見るかのような気持ちを抱かせる音楽として鳴り響いています。
これはもう、揺るぎない確信を裏付けとしながら紡ぎ上げられている演奏だと言いたい。この演奏でのスケールの大きさたるや、破格であります。
まずもって、テンポが異様なまでに遅い。演奏時間は32分。第1楽章の主題提示部をリピートさせているとは言え、この演奏時間は尋常ではありません。
一歩一歩、踏みしめながら音楽は進んでゆく。とりわけ第2楽章と最終楽章は、音楽が止まってしまうのではないだろうかと思わせるほどに遅い。
全編を通じて、洗練とは最も遠いところに立脚している音楽だと言えましょう。手触りがゴツゴツとしていて、終始、武骨な音楽が展開されてゆく。
それでいて、極めて遅いテンポが採られていながらも、音楽が弛緩するようなことは全くありません。むしろ、緊張感に満ちた音楽となっている。凝縮度や緊密度の高い音楽となっている。そして、誠にコクの深い演奏となっている。
洗練されていないものの、朴訥とした表情の中から、暖かい微笑みが見えてくるようでもある。第3楽章のトリオなどは、優しさに満ちた音楽となっている。そんなこんなの表情がまた、この作品の性格に寄り添ったものとなっている。
巨人による大建造物。こんなにも個性的なベートーヴェンの8番はなかなか考えられませんが、私を強く惹きつけ、抗しがたい魅力を備えている演奏となっている。
「恐れ入った」としか言いようがありません。