ジュリーニ&ロス・フィルによるドビュッシーの≪海≫を聴いて

ジュリーニ&ロス・フィルによるドビュッシーの≪海≫(1979年 録音)を聴いてみました。

ジュリーニ(1914-2005)は、その名声の割には特定のオーケストラのシェフの座に就いていたことの少なかった指揮者でありましたが、この音盤は、その中でも希少と言えそうなロス・フィルのシェフを務めていた期間(1978-1984)に為された一連の録音の中の1枚であります。
ジュリーニとドビュッシーというと、ちょっと意外な取り合せのように思われるかもしれません。しかしながら、ジュリーニは≪海≫に愛着を抱いていたようで、当盤の前にはフィルハーモニア管と、この後にはコンセルトヘボウ管と、という形で、3種類の正規録音を遺してくれています。

さて、ここでの≪海≫についてであります。
予想に反してと言いましょうか、明朗で、カラフルな眩さを感じさせてくれる演奏となっています。ジュリーニは、構成力の強くて堅牢な演奏を聞かせてくれることの多い指揮者だという印象が強いと言えるのではないでしょうか。そのために、カラフルな演奏が繰り広げられていることに、意外な思いを抱いてしまいます。
しかしながら、「意外と」という言葉は、存外、適切ではないのかもしれません。と言いますのも、ついつい見過ごされがちなところかもしれませんが、ジュリーニはイタリア生まれの指揮者なのであります。そのことを頭に置きながらこの≪海≫を聴いていますと、「ジュリーニの中には、まちがいなくラテンの血が流れているのだなぁ」という思いが込み上げてきます。
更に言えば、ロス・フィルのカラッとした明るめの響きが、この演奏を色彩的にさせているのかもしれません。
とは言いつつも、「ネアカ」一直線な演奏だという訳でもありません。振幅を広く採って、構えの大きな音楽づくりが示されています。それがゆえに、曖昧模糊な音楽になっておらずに、輪郭線が明瞭で、かつ、逞しくて骨太な音楽となっている。旋律線がクッキリとしていて、精妙でもある。更に言えば、しっかりと研磨し切っている音楽となっており、コクの深さが感じられもする。これらは、すなわち、ジュリーニならではのものであると言えましょう。

ジュリーニのちょっと意外な一面と、ジュリーニらしさとが共存している演奏。そんなふうに言えるように思えます。
そのうえで、独特の魅力を備えた、素敵な演奏であるとも言いたい。