イヴァン・フィッシャー&ブダペスト祝祭管によるベートーヴェンの≪英雄≫を聴いて

イヴァン・フィッシャー&ブダペスト祝祭管によるベートーヴェンの≪英雄≫(2023年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

イヴァン・フィッシャーは、2013年から翌年にかけて、コンセルトヘボウ管とのライヴで映像によるベートーヴェンの交響曲全集を制作し、充実度の高い演奏を繰り広げてくれていました。
それから約10年後にセッション録音された当盤でも、聴き応え十分な演奏を聞かせてくれています。
全体を通じて、堅実な演奏が繰り広げられています。演奏態度が、とても真摯でもある。そのうえで、気負いのない演奏ぶりの中から、十分に豊饒な音楽が響き渡ることとなっている。
総じてやや速めのテンポが採られていて(最終楽章のみ、さほど速くはなっていない)、キビキビと音楽が進められている。そのこともあって、キリっと引き締まった、端正な演奏となっています。大言壮語するようなことのないベートーヴェン演奏。
それでいて、タップリとした音楽が、ゆとりを持って奏で上げられている。それ故に、取り繕った様が一切感じられない演奏でありつつも、この作品に相応しい頑健にして壮麗な音楽世界が広がることとなっている。
しかも、ピュアな美しさを湛えた演奏となっている。それは、響きにおいても、音楽が示している佇まいにおいても、当てはまる。
そのような中で、例えば第1楽章のコーダでは、必要十分に燃焼度の高いが繰り広げられてゆく。更には、第2楽章の中間部では、十分に峻厳な音楽が鳴り響いている。そんなこんなが示しているように、作品のツボと言えるようなものをシッカリと押さえている演奏が、展開されているのであります。
また、「解像度の高さ」といったようなものが感じられるのが印象的でもある。そう、音像がとてもクッキリとしているのであります。特に、最終楽章での演奏において、そのことが顕著に見受けられる。

イヴァン・フィッシャーの音楽性の豊かさがクッキリと現れている、素敵な素敵な≪英雄≫であります。