カザルス&マールボロ音楽祭管によるモーツァルトの≪プラハ≫を聴いて

カザルス&マールボロ音楽祭管によるモーツァルトの≪プラハ≫(1968年録音)を聴いてみました。

カザルス(1876-1973)は、ブルーノ・ワルターと同年の生まれ。そして、この演奏は、92歳を迎える年のもの、ということになります。
偉大なるチェリストであったカザルスは、指揮者としての活動も精力的に行っていて、特に1950年代以降、カザルスが主催したプラド音楽祭、更には、プエルトリコ音楽祭、マールボロ音楽祭などで指揮した演奏の多くが音盤になっているのは、実に有難いことであります。

さて、ここでの≪プラハ≫を聴いて感じ取れたことについて。
「求道者」によるモーツァルト演奏、そんなふうに言えるように思えます。音楽がサラサラと流れるようなことは一切なく、一歩一歩を踏みしめながら進められてゆく。そのために、ズシリとした手応えを持った演奏となっています。陰影のとても濃い演奏だとも言えそう。
更に言えば、壮絶で激烈なモーツァルト演奏であります。特に、緩徐楽章でのドラマティックで、かつ、悲痛な歌には、グッと胸が締め付けられるような思いを抱く。
と言いつつも、必要以上に重苦しい訳ではありません。カザルスの人間性なのでしょう、優しさや慈愛に包まれている演奏となっている。最終楽章などでは、クッキリとしたロマンティシズムが感じられもします。
なるほど、剛速球を投げ込んできているような演奏ぶりだと言えましょうが、当たっても痛くないような球。そんなふうに言えるようにも思えます。
そんなこんなのうえで、敬虔な気持ちにさせられる音楽が、ここには広がっている。

なんとも立派な、そして、実に魅力的な演奏であります。