ワルター&ニューヨーク・フィルによるマーラーの≪巨人≫を聴いて

ワルター&ニューヨーク・フィルによるマーラーの≪巨人≫(1954年 セッション録音)を聴いてみました。

ワルターによる同曲の音盤と言えば、1961年にコロンビア響とステレオ録音したもの思い起こされる方が多いのではないでしょうか。しかしながら、今回紹介いたしますのは、その7年前にニューヨーク・フィルを指揮してモノラル録音したものになります。
さて、ここでの演奏はと言いますと、豊麗で、かつ、アグレッシブなものとなっています。剛毅な演奏ぶりだとも言いたい。そして、とても輝かしい音楽が鳴り響いている。最後の部分での昂揚感も頗る高くて、しかも、開放感に富んだ広壮な音楽世界が広がってゆく、といったものとなっている。
全編を通じて、情熱的で、生気に満ちていて、推進力に溢れた演奏が展開されています。とても逞しくもある。音楽を高らかに謳い上げている、といった演奏だとも言えそう。
そして、なんとも晴朗な音楽が鳴り響いています。そのことによって、マーラーの「青春の歌」と呼ぶに相応しい音楽世界が広がることとなっている。

※この作品が完成されたとき、マーラーは29歳でありましたので、30歳を手前にして「青春」とは、年齢的にみると必ずしも適切とは言い切れないかもしれません。
その一方で、ワルターは、この作品を、ゲーテの青春時代の作品≪若きウェルテルの悩み≫になぞらえて、マーラーの≪ウェルテル≫に当たると看做していたようです。

そんなこんなのうえで、暖かみがあり、聴き手を包み込むような優しさに満ちた演奏となっている。この辺りが、いかにもワルターらしいところ。
なるほど、晩年のステレオ期の演奏と比べると、少々荒々しい手つきであると言えるのかもしれません。とは言うものの、それでもやはり優しさが感じられる。それは、ワルターのヒューマニスティックな性格の現れなのでもありましょう。
それでいて、頗る輝かしくて、明快でメリハリが効いていて、歌心に富んでもいて、なおかつ、しなやかな音楽が鳴り響くこととなっている。とても率直な演奏ぶりだとも言えそう。しかも、暖かみがあって、コクが感じられもするのであります。

力感に溢れる音楽づくりの中にも、ワルターの豊かな人間性を感じることのできる演奏。そして、若きマーラーの手によって生み出されたこの交響曲の音楽世界を、存分に味わうことのできる演奏。
そんな、素敵な素敵な演奏であります。