ケンペ&ミュンヘン・フィルによるベートーヴェンの交響曲第4番を聴いて
ケンペ&ミュンヘン・フィルによるベートーヴェンの交響曲第4番(1972年録音)を聴いてみました。
ケンペによる演奏の特色、それは、誠実な音楽づくりを基調としながら、逞しくて充実度の高い音楽を鳴り響かせてくれるところにあるように思えます。しかも、大袈裟な素振りを見せるようなことは殆ど無い。自然な息遣いのもとで、美しい佇まいをした音楽が繰り広げられることとなる。
ここでの演奏もまた、そのようなケンペの美質が存分に発揮されたものとなっています。そう、なんとも健やかで、颯爽としていて、それでいて決して軽すぎることなく、中身がギッシリと詰まった充実した演奏が繰り広げられている。
しかしながら、この演奏の冒頭部分では、普段のケンペとは趣を異にした音楽を聞くこととなる。そう、第1楽章の序奏部は、声を潜ませ、極端に遅いテンポで一歩一歩を噛みしめながら進んでゆくのであります。それは、極度なまでの緊迫感に包まれていて、神秘的であり、霊妙な音楽でもある。
この楽章の序奏部は、第九を除くと、最も神妙な空気に支配されている音楽であると言えるのではないでしょうか。その特徴を、かなり強調した音楽づくりを示しているケンペ。そのことがまた、とても実直な印象を受けることとなる。
そのようにして開始されながらも、主部に入ると、音楽は一気に解放され、推進力の豊かな音楽が繰り広げられる。重心を低く採りながらも、その歩みは誠に壮健で、とても逞しい。そのコントラストの妙たるや、なんとも見事であります。ケンペの音楽性のなせる業だと言えましょう。
しかも、音楽がダブつくようなことは一切なく、スッキリとした音楽が鳴り響いている。そう、冒頭楽章の主部以降は、最終楽章が終わるまで、実直で、闊達で、充実感たっぷりな演奏が展開されてゆくのであります。最終楽章などは、やや遅めのテンポでジックリと進められてゆくのですが、音楽が弛むのようなことは全くなく、緊密度の高い演奏となっていて、かつ、キリっとした表情をしている。
真摯で誠実で、暖かみがある。情趣深くもある。音楽全体が、とても凛々しい。しかも、人間味に溢れていて、親しみやすくもある。それでいて、やはり、ズシリとした手応えがある。
聴き応え十分な、なんとも素晴らしい演奏であります。