クリュイタンス&パリ・オペラ座管によるワーグナーの序曲・前奏曲集を聴いて
クリュイタンス&パリ・オペラ座管によるワーグナーの序曲・前奏曲集(1959年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。
収録されているのは、下記の5曲。
≪さまよえるオランダ人≫序曲
≪タンホイザー≫序曲
≪ローエングリン≫第1幕への前奏曲
≪ローエングリン≫第3幕への前奏曲
≪ニュルンベルクのマイスタージンガー≫第1幕への前奏曲
クリュイタンスは、フランス語圏の指揮者(彼自身は、ベルギーの生まれ)として初めてバイロイト音楽祭に招かれたように、ワーグナーにおいても高い評価を得ていました。
バイロイト音楽祭での≪ローエングリン≫や≪タンホイザー≫、≪マイスタージンガー≫などは、ライヴ録音で残されています。それらは、決してドロドロした演奏となっておらずに、毒気もあまりない。むしろ、ワーグナーのオペラ演奏としてはさらりとしていて、清々しさのようなものが感じられるものでした。情念的というよりも、カラッと晴れ渡った世界の広がってゆくワーグナー演奏。そして、格調高くもある。
とは言え、ワーグナーの音楽が持つ「うねり」や、気宇の大きさや、精彩感や恍惚感といったものも備わっている。十分に情熱的で、輝かしくもある。大伽藍による壮麗さといったようなものではないものの、流麗な佇まいを示しながら、雄大さを存分に感じさせてくれる演奏となっていた。
さて、ここでのパリ・オペラ座管を指揮しての管弦楽曲集でありますが、バイロイト音楽祭でのライヴ盤を聴いての印象に、随分と重なります。
あまりドロドロとしてなくて、明快な演奏が繰り広げられている。晴朗な演奏ぶりだとも言えそう。そのうえで、音楽が存分にうねっていて、情熱的で、輝かしい。ある種、煽情的でもあり、ドラマティック。そのこともあって、オペラティックな感興に満ちた演奏になっていると言えましょう。とりわけ、≪タンホイザー≫での昂揚感や恍惚感の高さは、聴いていて惚れ惚れとしてきます。また、≪ローエングリン≫の第1幕への前奏曲では、頗る清浄で敬虔な音楽が鳴り響いているのが、とても印象的。
しかも、全編を通じて、クリュイタンスならではの薫り高さが感じられる。生彩感に満ちていて力感に溢れていつつ、端正でもある。
クリュイタンスによるワーグナー演奏の素晴らしさにタップリと触れることのできる、約46分間の管弦楽曲集。
多くの音楽愛好家に聴いてもらいたい、貴重な、そして、魅力的な音盤であります。