アバド&ロンドン響によるベルクの≪ルル≫組曲を聴いて

アバド&ロンドン響によるベルクのルル組曲(1970年録音)を聴いてみました。
ソプラノ独唱は、マーガレット・プライス。

明晰にして、生彩感に溢れた演奏が繰り広げられています。とても精妙な音楽が鳴り響いている。
全体的に、隈取りがクッキリとしていて、鮮明な演奏となっている。克明な音楽づくりが為されていて、整然としていつつも、エネルギッシュにしてドラマティックでもある。更には、響きの色彩が鮮やかでもある。
しかも、音楽が退廃的な色合いを放っておらず、むしろ健康的な演奏ぶりになっていると言えましょう。或いは、ある種の颯爽とした雰囲気が感じられもします。全体的に、あまりドロドロとしていたり、粘着質であったり、といったものにはなっておらず、冴え冴えとした音楽世界が広がっている。もっとも、ベルクの音楽自体、元々がそのような性格をしているのだ、とも言えそうなのですが。そのうえで、透明感に満ちていながら、肌触りは冷たくなく、暖かみの感じられる演奏となっている。
そのような中で、プライスによる清澄で透明感のある声と歌がまた、この演奏の爽やかさを増してくれています。

ベルクの音楽と言えば、一般的には何となく「難解な」イメージが付き纏うように思えますが、この演奏は誠に聴きやすい。そして、聴いていて面白い。爽やかにして、適度に(いや、充分に)スリリングでもある。明澄であり、かつ、明朗な演奏だとも言えそう。
なんとも素敵な演奏であります。