ベイカー&バルビローリ&ニュー・フィルハーモニア管によるベルリオーズの≪夏の夜≫を聴いて

ベイカー(メゾ・ソプラノ)&バルビローリ&ニュー・フィルハーモニア管によるベルリオーズの≪夏の夜≫(1967年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

ベイカーとバルビローリという、1960年代のイギリス楽壇が誇る2人の名演奏家が共演しての、ベルリオーズの録音。この2人は、エルガーやマーラーなど、数多くの共演を音盤に刻んでくれており、そのいずれもが魅力的な演奏を聞かせてくれていますが、このベルリオーズも、聴き応え十分な素晴らしい演奏となっています。

ベイカーならではの、凛としていて、格調の高い歌唱が繰り広げられています。何と言いましょうか、堅牢な歌いぶりが示されている。基本的には、仄暗さが立ち込めるような歌いぶりだと言えそうなのですが、芳醇な味わいを持ってもいる。
そのうえで、例えば、第1曲目の「ヴェラネル」(春を喜ぶ歌)では、伸びやかで晴朗で、洒脱な雰囲気を湛えている。第2曲目の「ばらの精」では、崇高にして気高さの漂う歌いぶりが披露されている。第3曲目の「入り江のほとり」(哀歌)では、沈痛な感情が前面に押し出されている。最終曲となる第6曲目の「未知の島」では、まさに希望に満ちていて、飛翔感の漂う歌となっている。
かように、それぞれのナンバーの性格を見事に描き分けながら、ニュアンス豊かにして、共感度の高い歌唱が繰り広げられています。しかも、各ナンバーがバラバラに感じられることはない。それは、ここでのベイカーの歌いぶりが、一貫して格調高くあるからなのでありましょう。
そのようなベイカーをシッカリと支えているバルビローリも、見事。総じて、メロウな雰囲気の漂う音楽づくりが施されていると言えましょう。そのうえで、ベイカー同様に、高い品性が感じられる。しかも、曖昧模糊とした音楽にはなっておらずに、輪郭がクッキリとしてところも、ベイカーの堅牢な歌いぶりに似つかわしい。

このような演奏を実現し得たのも、ベイカーとバルビローリの両者の、音楽性の豊かさや、音楽することへの誠実さゆえなのでありましょう。
実に立派な、そして、素敵な演奏であります。