カルロス・クライバー&バイエルン国立歌劇場によるJ・シュトラウスⅡの≪こうもり≫を聴いて

大晦日ということで、こちらを聴いてみました。カルロス・クライバー&バイエルン国立歌劇場によるJ・シュトラウスⅡの≪こうもり≫(1975,76年録音)。
主な配役は、下記の通りになります。
アイゼンシュタイン:ヘルマン・プライ(Br)
ロザリンデ:ユリア・ヴァラディ(S)
ファルケ:ベルント・ヴァイクル(Br)
アデーレ:ルチア・ポップ(S)
アルフレード:ルネ・コロ(T)
オルロフスキー公爵:イヴァン・レブロフ(C-T)
フランク:ベンノ・クシェ(Br)

カルロスが中心となって作り上げられているここでの演奏の、なんと生き生きとしていて、躍動していることでありましょうか。キビキビとしていて、かつ、音楽が至る所でピチピチと弾けています。
全編を通じて、鮮烈で、精彩感に満ち溢れた演奏が繰り広げられている。機敏さが際立っている。強靭さや、輝かしさや、華やかさを備えてもいる。至る所で、音楽を畳みかけてゆく。しかも、とてもホットでありながら、洒落っ気に満ちている。そのうえで、しなやかで、伸びやかで、颯爽としている。柔軟性を帯びてもいる。凛々しくて、冴え冴えとしていてもいる。そして何よりも、愉悦感の横溢した演奏となっている。
そんなこんなによって、雄弁にして表情豊かで、ヴィヴィッドな音楽が鳴り響くこととなっています。
更に言えば、常に快活で軽妙でありつつ、時にエラく「真面目ぶった」表情を見せたり、ドラマティックであったりするところがまた、より一層の笑いを誘い、大きなアクセントとなってもいる。この辺りの切り替えの鮮やかさや、そのポイントを見極めるカルロスの音楽センスの高さは、まさに脱帽ものであります。

歌手陣がまた、実に素晴らしい。特に、プライとポップは絶品と言えましょう。
プライが演ずると、アイゼンシュタインの二枚目半的な性格が、実に鮮やかに描き出されてきます。アイゼンシュタインという役は、もともとは滑稽な三枚目として産み出されているのでしょうが、プライが歌うと、コミカルなキャラクターの中にもダンディズムのようなものが感じられる。しかも、頗る自然な形で。それが、なんとも魅力的。
声の美しさや、ハリのある歌い口も、申し分が無い。しかも、実に颯爽としてもいる。バリトンならではの恰幅の良さが備わってもいる。
アイゼンシュタインは、テノールによって歌われることのほうが多いように思えますが、個人的にはバリトンによる歌のほうに強く惹かれます。プライの歌を聴くと、その思いがより一層強くなる。
私にとっては、ベストな形でのアイゼンシュタインの姿がここにある。頗る魅力的なアイゼンシュタインであります。
ポップによるアデーレがまた、可憐さが引き立っていて、実に素敵。しかも、清純でいて、悪戯っぽさがあり、蠱惑的な性格が備わってもいる。いやはや、なんとも芸達者な歌が繰り広げられています。
これまた、実に魅力的なアデーレであります。
貫禄たっぷりなヴァラディとヴァイクル。得体の知れない大富豪の怪しさを巧みに描き上げている、カウンターテナー歌手のレブロフによるオルロフスキー。そして、輝かしい声を惜しげもなく披露してくれているコロ。
なんとも見事な、そして、素敵な歌が揃っています。

いやはや、規格外に素晴らしい演奏であります。天晴な演奏だとも言いたい。
晴れ晴れとした気分に浸りながら、ひたすらに音楽を聴く歓びを嚙み締めることのできる≪こうもり≫が、ここでは繰り広げられている。それこそが、大晦日に≪こうもり≫を聴く妙味であると言えましょう。