ケーゲル&ドレスデン・フィルによるヒンデミットの≪世界の調和≫を聴いて

ケーゲル&ドレスデン・フィルによるヒンデミットの≪世界の調和≫(1984,85年録音)を聴いてみました。

ケーゲル(1920-1990)は、東ドイツで活躍していた指揮者でありますが、1990年に東西ドイツの統一がなされた直後、これから先の自身の演奏活動に悲観して、ピストル自殺を図ってこの世を去りました。時代に翻弄され、非業の死を遂げた指揮者だったと言えましょう。
古典派から現代音楽まで、幅広いレパートリーを有していましたが、とりわけ、現代音楽を積極的に採り上げていたケーゲル。そのような指揮者だったということもあって、見事なヒンデミット演奏が繰り広げられています。

まずもって、とても篤実な演奏だと言えましょう。であるが故に、作品の持つシリアスな性格が際立つこととなっています。
情緒に流されることなく、客観性が高くて、キリッと引き締まったフォルムによって奏でられてゆく。しかしながら、過度にエキセントリックになっている訳でもなく、まろやかでしなやか。変に冷たい表現に傾くことはなく、充分に熱くて逞しくもある。
そのうえで、誇張したような表現は皆無なのですが、気宇の大きな演奏となっている。更に言えば、凝縮度が高く、峻厳さが感じられる。シニカルな性格も、凛とした表情で描き出されてゆく。そのような演奏ぶりが、ヒンデミットの音楽には誠に相応しい。

ヒンデミットの音楽に接する歓びを堪能させてくれる、充実感いっぱいの、素晴らしい演奏であります。