ショルティ&ヨーロッパ室内管によるモーツァルトの≪ジュピター≫を聴いて

ショルティ&ヨーロッパ室内管によるモーツァルトの≪ジュピター≫(1984年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞になります。

ショルティによるモーツァルトの録音は、オペラでは数多くの作品が残されていますが、交響曲は少ない。セッション録音では、当盤に収録されている≪ジュピター≫と第40番以外には、1980年代の前半にシカゴ響と録音した≪プラハ≫と第39番、それに、モノラル期にロンドン響と録音した第25番と≪プラハ≫が遺されているくらいでしょう。
それだけに、貴重な記録だと言えそうです。

さて、ここでの演奏はと言いますと、キリっと引き締まったものとなっています。推進力に満ちていて、音楽の運びがキビキビとしていて、溌溂としている。メリハリが効いていて、目鼻立ちがクッキリとしてもいる。
こういった特徴は、ショルティの音楽的な志向に加えて、室内オーケストラが起用されていることにも起因しているのではないでしょうか。
それでいて、力で押し切るような演奏にはなっていません。なるほど、剛毅な演奏ぶりでありつつも、しなやかさを備えている。ある種の柔和さが感じられもする。
しかも、頗る輝かしい。この曲に相応しく、壮麗でもある。そう、引き締まった音楽になっていながらも、痩せすぎるようなことはなく、風格の豊かさが感じられる。とりわけ、最終楽章では、キビキビとしていながらもドッシリとしていて、壮大な音楽世界が広がっています。
そんなこんなのうえで、モーツァルトらしい、飛翔感が宿っている。第2楽章などは、歌謡性に満ちてもいる。

1980年代の中頃からのショルティは、1960-70年代に多く見られた尖鋭な音楽づくりに比べると、丸くなってきたように思えます。ここでのモーツァルトなどは、そのことが顕著に現れていると言えそう。
ショルティが遺してくれた数少ないモーツァルトの交響曲の一つだということも含めて、ショルティの音盤を俯瞰するうえで、興味深い演奏になっていると思います。
もっとも、そのようなことを度外視しても、聴き応え十分で、素敵なモーツァルト演奏になっている。この演奏、注目されることは少ないように思えますが、多くの音楽愛好家に聴いてもらいたい1枚であります。