ドホナーニ&クリーヴランド管によるドヴォルザークの≪新世界より≫を聴いて

ドホナーニ&クリーヴランド管によるドヴォルザークの≪新世界より≫(1984年録音)を聴いてみました。

1929年9月8日生まれのドホナーニ。現在、93歳となっていますが、引退したと報じられていませんので、現役指揮者として演奏活動を続けているのでしょう。もっとも、ドホナーニよりも2つ年長のブロムシュテットも精力的な演奏活動を展開しており、特に驚くほどでもないのかもしれませんが。
ここで採り上げる演奏は55歳のときのもの。ドホナーニ壮年期の、充実した活動を行っていた時期の記録ということになります。

堅実な演奏ぶりでありつつも、とても鮮烈な演奏となっています。
誠実な音楽づくりをベースにしながら、精巧な演奏を繰り広げています。派手なジェスチャーは、どこにも感じられない。音楽を誠実に奏で上げることに専念している演奏だと言えそう。
それでいて、決して生硬なものにはなっていません。むしろ、とても生き生きとしている。躍動感に溢れてもいる。しかも、流れは極めて自然で、しなやかでもある。ふくよかさも充分。そんなこんなによって、作品に豊かな息吹が吹き込まれてゆく。全編にわたって、逞しい生命力に満ちた音楽が鳴り響いている。
やるべきことをやり尽くしている演奏だと言えましょう。その結果として、充実極まりない音楽が鳴り響いています。磨き上げは誠に丹念で、響きは透明感を持っていつつ、暑苦しくない範囲で充分に重厚で、かつ、充実を極めている。そのうえで、この作品に込められているエネルギーが過不足なく放出されている。凝縮度が頗る高い。筋肉質でいて、豊潤でもある。そして、音楽が見せている佇まいは、実に美しい。

ドホナーニ&クリーヴランド管のコンビ、私は大好きであり、多くの演奏から上述した美質を窺うことができるのですが、ここでの≪新世界より≫では、このコンビの美点が凝縮されていると言えそう。
いやはや、惚れ惚れするほどに見事で、聴き応え十分な、途轍もなく魅力的な演奏であります。