井上道義さん&京都市響によるブルックナーの交響曲第8番を聴いて

今日の昼間、清凉寺へ「嵯峨大念佛狂言」を観に行ってきました。壬生大念仏狂言、千本ゑんま堂狂言とともに京の三大念仏狂言のひとつに数えられています。
観てきた演目は≪花盗人≫。あらすじは、下記の通りになります(嵯峨大念佛狂言のHPより)。

登場人物:旦那(お侍さん)・供(旦那の従者のこと)・盗人
旦那と供が花を眺め、花を切って帰ろうとするが、切った花を泥棒にとられてしまう。
返してもらおうと、いろいろ手だてを尽くすが、すべて取られてしまう。
旦那が考えて、 供に縄をなわせ、自分が泥棒を捕まえる。
供は縄で泥棒を括ろうとするが、間違って旦那 を括り泥棒を逃がしてしまう。
旦那が怒って、横槌を振り上げ供を追い立てて退場する。

狂言は、「カタモン」と「ヤワラカモン」の2種類に大別でき、カタモンは能系統の演目で、ヤワラカモンはコミカルな要素を持っている演目。≪花盗人≫はヤワラカモンの演目になります。
解りやすい内容で、確かにコミカルであり、客席からは時おり笑い声が起きていました。
このような伝統芸能を、身近に体験できるところが、京都ならではであります。

さて、本日の音楽はと言いますと、井上道義さん&京都市響によるブルックナーの交響曲第8番(2013年ライヴ)について。こちらは、図書館で借りたCDでの鑑賞になります。

今年77歳になる井上さんは、来年末での引退を表明されています。演奏活動も、残すところ1年9か月ほど。
そのような井上さんは、今月から再来月までの3ヶ月間、関西では、大阪フィル、京響、PACオケ(兵庫芸術文化センター管)の演奏会に登壇する予定となっています。そのうち、PACオケとの演奏会は、同オケとの最後の定期演奏会になるとのアナウンスがされている。

今回聴きましたのは、京響を振ってのブルックナーということになるのですが、井上さんによるブルックナー演奏と言うのも、珍しいように思います。調べてみますと、ブルックナーの音盤は、2002年に新日本フィルとライヴ録音している交響曲第7番が出ていたのみのようです。
そのような井上さんによる、ここでの第8番ですが、やや遅めのテンポでジックリと奏で上げたものとなっていて、虚飾の無い演奏ぶりが刻まれています。
井上さんは、個人的な印象としては、芝居じみた素振りの見受けられる演奏を時おり繰り広げる指揮者だな(その分、エンターテイメント性が高い)と感じているのですが、このブルックナーでは、そのようなことが殆ど感じられない。
(最後の最後、3つの音を思いっ切り遅くして、かつ、音を伸ばしていたのは、芝居っぽく感じられましたが。)
それでいて、武骨な演奏になっている訳ではなく、滑らかさや、艶やかさが感じられる。これ見よがしではない力強さが備わってもいる。それは、腹にズシリと響く力強さだと言えましょうか。
そのうえで、とても真摯で、ブルックナーならではの敬虔な空気の漂っている演奏となっている。
ところどころで、もう少し律動感があっても良いのではないだろうかと思われたり(特に、第1楽章において感じられた)、もう少し流動性の高さがあったほうが良っかったのではないだろうかと思われたり(この点については、最終楽章において感じられた)、といったこともありましたが、全体を通じて、実に立派で、聴き応えの十分なブルックナー演奏であったと思います。

なお、前述した今月からの関西での3つの演奏会では、ショスタコーヴィチ、ドビュッシーとラヴェルと武満徹、ストラヴィンスキーと、ドイツ音楽以外を中心に採り上げることになっているのですが、4月の演奏会で唯一のドイツ音楽としてハイドンの≪太鼓連打≫が前プロに組まれています。そのハイドンが、どのような演奏になるのか(このCDで聴くことのできたブルックナーと似たような傾向を示すのか)、楽しみであります。
それに加えまして、引退されるまでに一度、ブルックナーの実演にも接してみたいものです。
(昨年、読響とブルックナーの交響曲第9番を演奏しているようなので、これから1年9ヶ月の間に、ブルックナーを聴くことのできる機会が訪れるかもしれません。)