ジュリーニ&シカゴ響によるブリテンの≪テノール独唱、ホルンと弦楽のためのセレナード≫を聴いて

ジュリーニ&シカゴ響によるブリテンの≪テノール独唱、ホルンと弦楽のためのセレナード≫(1977年録音)を聴いてみました。
テノール独唱はティアー、ホルンソロはクレヴェンジャー。

≪ピーター・グライムズ≫に通じるような、「荒涼とした」音楽世界が広がっている作品であります。であるからこそ、全8曲中の第5曲目「通夜の歌」での激情と、第6曲目の「讃美の歌」での陽気な音楽が、素敵なコントラストを成している。
(「讃美の歌」でのホルンソロは、R・シュトラウスのホルン協奏曲第1番の最終楽章に似通った動きをしている。)

そのような音楽に対し、イギリス生まれの名テノールであるティアーによる歌は、歌っているというよりも、語っていると言いたくなるような歌唱となっています。そう、切々と語りかけてくるような歌いぶり。それがまた、この作品の「ひだ」をクッキリと浮かび上がらせてくれている。
一方、高いヴィルトゥオジティを誇るシカゴ響の中でも名物プレーヤーの一人であったクレヴェンジャーによるホルンは、滑らかな演奏ぶりをベースにしながら、時に寂寥感たっぷりに、時に軽快に、時に荒々しくと、自在な音楽を繰り広げてくれている。
そのような主役2人をサポートするジュリーニは、克明な音楽を鳴り響かせながら、作品をキリっと描き上げていっている。
この作品には、とっつきにくさのようなものが少々感じられるのですが、ジュリーニによる曖昧さのない演奏ぶりによって、整然とした形で、音楽世界を俯瞰することができる。そのうえで、音楽づくりに誠実さが感じられもする。

この作品の魅力を十全に表現し尽くしてくれていると言えそうな、素晴らしい演奏であります。