プレヴィン&ロンドン響によるラヴェルの≪子供と魔法≫(再録盤)を聴いて

プレヴィン&ロンドン響によるラヴェルの≪子供と魔法≫(1997年録音)を聴いてみました。
配役につきましては、お手数ですが、添付の写真をご参照ください。

この作品は、6,7歳ほどの子供を主人公にした演奏時間45分ほどの1幕もののオペラ。ラヴェル自身、「ファンタジー・リリック(幻想的・抒情劇)」と呼んでいましたが、なんとも不思議な音楽となっています。と言いますのも。
平易な語法によって書き上げられている作品でありながら、色彩感に溢れていて煌びやか。メルヘンチックでありながら、起伏は激しい。しかも、凶暴にならずに暖かみがある。猫の二重唱を始めとして、洒落っ気たっぷりで、ウィットに富んだ音楽となっています。ちょっと、クルト・ワイルによる≪三文オペラ≫を連想させるような曲調を示す場面もある。
(参考までに記しますと、≪子供と魔法≫の初演は1925年、≪三文オペラ≫の初演は1928年と、両者が作曲された時期はとても近い。)
また、ベートーヴェンの≪田園≫の第2楽章での「鳥のさえずり」にソックリな音型が出てくる辺りは、ご愛敬と言えましょう。更には、自作の≪高雅にして感傷的なワルツ≫のメロディが聞こえてきたりもして、微笑ましい。
そのような足取りをたどりながら、愛情豊かで「崇高」とも言える境地へと登りつめてゆく音楽。しかも、その頂点では、敬虔な「動物たちによる合唱」が歌われた後に、ただ一言”ママ”という言葉が子供によって呟かれて、作品が簡潔に閉じられるという素晴らしさ。心に余韻の残る一言であります。

プレヴィンは、この音盤から10数年前の1981年にもロンドン響とEMIレーベルに同曲を録音していました。そこでは、キッカリとした輪郭線によって奏で上げられた克明な演奏ぶりによって、解りやすくこの作品を描き上げてくれていましたが、その分、幻想的な性格は薄く、もっと現実的な音楽として鳴り響いていたように思えます。
(ここには、EMIの音作りも関係しているようにも思えます。)
とは言え、適度にエレガントでもあり、幻想的だと言えるようなものとはまたちょっと違った、柔らかさを伴ったムーディな雰囲気が漂っていて、その辺りのバランスが、なんとも素敵な演奏でもありました。

さて、ここでの再録音についてであります。
旧録盤と同様に、全体に明瞭な音楽づくりが為されていると言えましょう。表情がクッキリとしていて、見通しが良くて、とても解りやすい演奏となっています。
そのうえで、旧録盤と比べると、純朴な清新さのようなものがあり、演奏全体から温もりのようなものが感じられる。そのために、鮮烈にして、滋味深い音楽が鳴り響いていることとなっています。また、旧録盤でも、一定の柔らかさやふくよかさが感じられたのですが、この再録盤では、その辺りの要素が強くなっていて、全体的にまろやかさを湛えている演奏となっている。
そんなこんなによって、この作品が持つ複次的な魅力を鮮やかに描き出されている素敵な演奏が展開されている。そんなふうに言えるように思えます。
歌手陣も粒が揃っています。全ての歌手たちが生き生きとした歌いぶりを示してくれていて、見事なものでありました。

このオペラの音楽世界に抵抗なくス~っと入っていくことができ、そして、この作品の魅力をスッキリとした形で味わうことのできる、魅力的な演奏であります。