川瀬賢太郎さん&日本センチュリー響による演奏会を聴いて
今日は、川瀬賢太郎さん&日本センチュリー響の演奏会を聴いてきました。演目は、下記の4曲。
●J・シュトラウスⅡ ≪皇帝円舞曲≫
●コルンゴルト ヴァイオリン協奏曲(独奏:チューイ)
●アイネム ≪フィラデルフィア交響曲≫
●ラヴェル ≪ラ・ヴァルス≫
川瀬さんの実演に接するのは、一昨年にアンサンブル金沢(OEK)と兵庫芸術文化センター管(PAC)を聴いて以来で、3回目になります。
本日の演奏会、かなり意欲的なプログラムとなっていました。冒頭の≪皇帝円舞曲≫が異質に感じられますが、最初と最後にワルツを置いて、コルンゴルトとアイネムによる演奏機会のあまり多くない作品を挟み込んでプログラミングした、という意図なのでしょう。
(プログラム冊子を見ますと、本日の演奏会のテーマは「ウィーン」とのこと。)
過去2回、川瀬さんの実演を聴いての印象は、音楽性が豊かで、表現意欲が強い、というもの。OEKとのモーツァルトの≪ジュピター≫では、発想力の幅広さが私には作品と乖離していた部分があったように思え、違和感を覚えたのですが、PACとのラフマニノフの2作では、そのような違和感は殆どなく、作品の核心を捉えた演奏だったと思えたものでした。
本日は、どのような演奏を繰り広げてくれるのだろう。コルンゴルトとアイネムを聴くことができるということも含めて、期待に胸を膨らませながら会場へと向かいました。
演奏会を聴き終えての印象。それは、≪皇帝円舞曲≫での演奏に不満が残ったのですが、その他の3曲は興味を惹かれる演奏が続いた、というもの。私個人としましては、川瀬さん、いよいよ、目の離せない指揮者となりました。
それでは、もう少し細かく触れてゆくことに致しましょう。まずは、前半の2曲から。
≪皇帝円舞曲≫は、全体的に重たい演奏となっていたのが気になりました。粋であったり、瀟洒であったり、といった性格も薄かった。また、オケのメンバーも、四角四面な表情(顔つきも、演奏ぶりも)で、愉悦感に乏しい。なぜ、この演奏会の冒頭で≪皇帝円舞曲≫を聞かなければならないのか、という理由が理解できない時間を過ごしている、といった気分で聴いていたというのが、正直なところでありました。
演奏会の冒頭から生粋のウィンナ音楽を聴くというのも、今一つ、気分が乗ってこない。と言いますか、そのような気分にさせてくれる演奏(ウィーンへと気分を誘ってくれる演奏)には、遠かった演奏ぶりと思えた。ウィンナワルツの要素を含んでいる作品を採り上げるのであれば、スッペのオペレッタの序曲、例えば、≪ウィーンの朝昼晩≫や≪詩人と農夫≫あたりを選択しても良かったのではないだろうか。そのような思いを抱きいたものでした。
そこへいきますと、次のコルンゴルトは、なかなかの好演でありました。コルンゴルトの、親しみやすくて、甘美な音楽世界を、シッカリと描き上げてくれていた。
チューイは、1993年に生まれたカナダ系アメリカ人のヴァイオリニスト。と言いつつも、プロフィール写真を見ますと、アジアの血も流れているようです。チューイは、本日の演奏会に赴くまで、名前も知りませんでした。
そのチューイによるソロは、艶美で滑らか。あまり骨太な感じでなかったのは、映画音楽の延長のようなこの作品に相応しいと言えそう。それでいて、低音のほうも、シッカリと鳴っていた。なるほど、高音での艶やかな響きに特徴のあるヴァイオリニストだな、という印象が強かったのですが、どの音域も、ムラなく響かせてくれていました。更には、第3楽章での小気味良さも、見事でありました。全体を通じて、好感の持てるコルンゴルト演奏でありました。
そのようなチューイをサポートする川瀬さんの指揮も、機敏にして表情豊か。コルンゴルトでの演奏ぶりに接するにつけ、後半が楽しみになったものでした。
さて、後半の2曲についてであります。
アイネムは、調性の明確な、聴きやすい作品。第3楽章はリズミカルな音楽となっている箇所もあり、親しみやすい。そのような作品を、川瀬さんは、溌剌と、そして、明朗に演奏を繰り広げてくれていて、聴き応え十分でありました。エッジの効いた演奏ぶりとなっていたのも、心地が良かった。
そして、本日の演奏で最も印象的だった≪ラ・ヴァルス≫へ。それはもう、意欲的な演奏ぶりでありました。川瀬さんならではの表現意欲の旺盛な演奏だったとも言えましょう。
まずは、最初の箇所は、まさに音楽に靄が掛かっているような演奏ぶり。その靄が、だんだんと晴れていき、音楽の姿が明瞭になっていき、精気を帯びてくる様子が、克明に描かれていたのであります。主部に入ると、音楽は躍動しながら進んでゆく。その一方で、随所に現れるリタルダンドをオーバー気味に掛けていき、そのことによって、音楽の構造に明快なアクセントが与えられてゆく。快調に進めながら、リタルダンドで粘る、といった様相でもありました。
そのような中でも、最も個性的だったのは、「ワルツの崩壊」の少し前の、テンポをガクンと落としては(ここでは3つ振りをする)、テンポプリモで早める(ここで、多くの演奏では、1つ振りになる)、を繰り返す箇所。川瀬さんは、テンポプリモせずに、そのままのテンポで押し通した(そのため、3つ振りのまま)のでありました。そのために、何と言いましょうか、悪魔的な音楽世界が出現した。更には、ここでの粘り気たるや、破格でありました。川瀬さんの面目躍如と言えましょう。その後の「ワルツの崩壊」は、雪崩が起きたかのように一気呵成に畳み掛けてゆく。なかなかな巧みな設計で、強く惹きつけられたものでした。
個性的なプログラムを、個性的な演奏で楽しむことのできた、本日の演奏会。このような体験を積むことができるからこそ、演奏会通いを続けるのですよね。