クリュイタンスによる≪英雄≫を聴いて

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クリュイタンス&ベルリン・フィルによるベートーヴェンの≪英雄≫(1958年録音)を聴いてみました。

クリュイタンスは、ベルギーに生まれた指揮者でありますが、フランス音楽のスペシャリストというイメージが強いのではないでしょうか。しかしながら、ドイツ音楽や、ロシア音楽でも、実に素晴らしい演奏を聞かせてくれる指揮者でありました。例えば、バイロイト音楽祭に最初に招かれたフランス系の指揮者がクリュイタンスであったように。
この≪英雄≫は、そのようなクリュイタンスが制作したベートーヴェンの交響曲全集の中からの1枚。ちなみに、ベルリン・フィルが最初に制作したベートーヴェンの交響曲全集が、ここでのクリュイタンスとのものになります。

さて、ここでの演奏について触れることにしましょう。
充実感いっぱいであり、かつ、重苦しくなく、優美さのようなものが備わっている演奏となっています。
この印象は、ベルリン・フィルの重厚な響きと、クリュイタンスの瀟洒な音楽づくりとが融合された結果であると言えましょう。そのため、ここで聴くことのできる音楽は、≪英雄≫が持っている奇数番号的な「威圧感」のようなものが前面に押し出された演奏とはなっていないにもかかわらず、充足感に溢れた音楽となっている。力感や運動性にも不足はなく、音楽が逞しく息づいている。そう、奇数番号的でないようでいて、充分に奇数番号的な性格を備えているように思えるのです。
そのうえで、気品のある音楽となっている。クリュイタンス独特の匂い立つような「薫り高さ」が感じられる、エレガントな魅力に包まれているベートーヴェン演奏。艶やかな色彩感があって、独特の光沢(それは、輝かしさと言っても良いかもしれません)が感じられるベートーヴェン演奏。オシャレで、典雅でもある。

実に素敵なベートーヴェン演奏であり、≪英雄≫であると思います。