マルティノンによるサン=サーンスの≪オルガン付≫(1975年録音)を聴いて

マルティノン&フランス国立管によるサン=サーンスの≪オルガン付≫(1975年録音)を聴いてみました。

マルティノンは、1976年に66歳の若さで急逝したフランス生まれの指揮者。まだまだこれからという時期にこの世を去ったことになり、そのような点では、同じ1976年に66歳で逝去したルドルフ・ケンペと重なってしまいます。しかも、演奏から滲み出てくる「音楽に対する誠実さ」のようなものが、マルティノンからもケンペからも同じように感じられます。
そのようなマルティノンが、死の前年に録音したこの演奏。彼は、この5年前の1970年に、同曲を同じオーケストラ(但し、フランス国立放送管弦楽団の呼称が付けられていた時期のもの)とエラート・レーベルに録音していますが、こちらは、EMIにサン=サーンスの交響曲全集を制作するために再録音したものとなります。

さて、ここでの演奏について触れたいと思います。
抒情味豊かで、清冽で、エレガントな演奏であると言えましょう。大袈裟な演出は一切ない。そのため、この作品での演奏でしばしば巡り合うこととなる「スペクタクル」な性質は、殆ど感じられません。
それでいて、生命力に溢れてもいる。何と言いましょうか、芯のシッカリとした音楽となっているのです。力感に不足もない。全体的にしなやかさが前面に押し出されていつつ、逞しさが備わってもいる。そして、必要以上に鮮烈になるようなことはないのですが、色彩感は充分。
この辺りの力感の豊かさは、マルティノンの演奏の特徴でもあると言えそう。例えば、ロンドン響を指揮してのボロディンの交響曲第2番などでは、野性味充分な逞しい演奏を聞かせてくれています。そこでの演奏と比べると、この≪オルガン付≫での運動性の発露はそれほど露骨なものとなってはいませんが、それでもやはり、シッカリとした力感の備わっている演奏となっている。

ピュアな美しさを湛えている演奏。更に言えば、奥行き感があって、聴き手を包み込むような優しさや暖かさを持っている演奏。この作品の演奏としては、独特の魅力を備えている演奏であると言えましょう。そのうえで、生命力の豊かさが充分に感じられる演奏となっている。
このような≪オルガン付≫も、素敵であります。