ボールト&ロンドン・フィルによるブラームスのセレナード第1番を聴いて
ボールト&ロンドン・フィルによるブラームスのセレナード第1番(1977年録音)を聴いてみました。
ボールト(1889-1983)と言えば、「イギリス音楽のスペシャリスト」というイメージが強いのではないでしょうか。なかんずく、ホルストの≪惑星≫が、真っ先に頭に浮かんでくることでしょう。1918年の初演を指揮したのがボールトであり、生涯で5度もレコーディングしているのですから。
そのようなボールト卿ですが、ドイツ音楽もとても素晴らしいのです。この演奏が含まれている11枚組のボックスCDには、バッハからモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、ワーグナーなどのドイツ音楽のみが収められているのですが、どれも一級品だと思っています。
響きには厚みがあって、ドイツ音楽そのもの。スケールが大きくもある。それでいて、押しつけがましかったり、重苦しかったりといったようなことはなく、親しみやすくて暖かみがある。とは言うものの、隅々までが充実し切っていて、誠に立派。そして、品格の高い音楽を奏で上げてゆく。
上記の特徴は、このセレナードでの演奏にもそのまま当てはまりましょう。
ブラームスらしい重厚さの中に、晴朗で、爽快感を漂わせている演奏が繰り広げられています。ニュアンスが細やかで、歌謡性が高くもある。ブラームスが20代のとき書き上げられた、そして、ブラームスにとっては管弦楽を伴った最初の作品となったこのセレナードに籠められている若々しくて伸びやかで清々しい感興も、屈託なく表されている。
この作品の魅力を語り尽してくれている、実にチャーミングな演奏。
更には言えば、実に若々しくて躍動感に溢れた演奏となっています。これが、あともう少しで90歳を迎えようとしている指揮者による演奏などとは、とても信じられません。
ここ数日、京都はポカポカ陽気が続いていて春めいてきましたが、そのような時期に聴くのに似つかわしい華やぎを持っていて、聴いていて心が弾んでくる作品であり、演奏であります。明るい気分で包んでくれる。そして、とても晴れやかでもある。
ブラームスのセレナード第1番は、もともとが大好きな曲なのですが、当盤は、ハイティンク&コンセルトヘボウ管、ケルテス&ロンドン響とともに、私の中での同曲のベスト3のうちの1枚となっています。
話題に上ることの少ない音盤かもしれませんが、多くの音楽愛好家に聴いてもらいたい、なんとも素敵な演奏であります。