デュトワ&大阪フィルの演奏会を聴いてきました

昨日(5/30)は、デュトワ&大阪フィルの演奏会に行ってきました。演目は、下記の通り。
●ハイドン ≪ロンドン≫
●ラヴェル ≪クープランの墓≫
●ストラヴィンスキー ≪ペトルーシュカ≫

デュトワによる実演は、N響との共演で数回聴いたことがありますが、大フィルとの共演を聴くのは初めてになります。
なお、デュトワが初めて大フィルに客演したのは、2019年のこと。その演目は、下記の通りだったようです。
ベルリオーズ ≪ローマの謝肉祭≫
ラヴェル ≪ダフニスとクロエ≫第2組曲
ベルリオーズ ≪幻想交響曲≫
その後、2020年に、今回と全く同じプログラムの演奏会が組まれるも、コロナのために中止。2021年にも同じプログラムの演奏会を開くことになったのですが、これまた、コロナで中止される。3年越しで、ようやく実現した演奏会ということになります。そして、2回目の大フィルとの共演が実現したことになる。

私が聴いたN響との共演では、どの演奏会でも、オーケストラと作品を自らのカラーに染め上げていたデュトワ。そう、眩いほどに煌びやかで、エレガントで美しい演奏が繰り広げられていたのでした。N響から、完全に「デュトワ・サウンド」を引き出していた。それはもう、マジックをかけていたかのごとく。
それだけに、今回の大フィルとの演奏会でも、「デュトワ・マジック」に触れることができるであろうと、期待に胸を膨らませて会場に向かったものでした。演目も、デュトワの美質に合ったものが並んでいるだけに。

2019年に客演した公演のチラシ

さて、実際に聴いてみますと、やはり、見事な「デュトワ・ワールド」が展開されていました。特に、≪ペトルーシュカ≫において。
今年の10月には86歳になるデュトワ。その健在ぶりを、まざまざと見せつけてくれた、という感が強い。そして、そのことに大喜びしたものでした。

もう少し細かく書いてゆくことにしましょう。まずは、≪ロンドン≫から。正直言いまして、≪ロンドン≫には不満が残っています。
デュトワにしては、重い演奏ぶりとなっていました。そして、恰幅が良くて、貫禄のある演奏になっていた。この辺りに、年輪を重ねたデュトワの音楽を聴いた、との思いを持ったものです。
と言いつつも、壮麗な音楽になっていた、といった感じでもなかった。(≪ロンドン≫は、壮麗な演奏スタイルも受け入れてくれる作品だと思う)
それでいて、ハイドンならではの軽妙さが出ていた訳でもない。
中途半端な演奏だったというのが、正直なところであります。
続く≪クープランの墓≫で、デュトワらしい軽妙さが出てきた。速めのテンポを採っていたこともあり、音楽がキビキビと躍動していた。そして、エレガントな音楽世界が広がっていた。
但し、オーボエがたどたどしく聞こえたのが、残念でありました。
更に言えば、これは、全体を通じての話になりますが、音楽に滑らかさが足りないように思えた。もっと光沢があっても良いように思えた。これらについては、デュトワであれば、もっと滑らかで、もっと光沢の感じられる演奏が可能だったはず、という意味においてなのですが。そんなこんなも含めて、デュトワならば、もっとチャーミングな演奏に仕上げることができたはず、という思いが残ったのでありました。

個人的には、前半は不完全燃焼。しかしながら、後半で完全に払拭してくれました。
出だしからして、前半と異なった音楽世界が広がっていた。音がキラキラと輝いている。それはもう、眩いまでの色彩感を備えていた音楽が鳴り響いていた。しかも、重心が高くて、音が宙を舞っているかのような浮遊感があった。そのような音楽によって、ホールが満たされてゆく。いよいよ、デュトワ・マジックの幕が切って落とされた。そんな思いで、胸が高鳴ったものです。
まずもって、流れが実に滑らか。キビキビとしていて、歯切れが良い。音楽の見通しが、スッキリとしている。そして、音に混濁が無い。
こんなにもスムーズに進んでゆく音楽は、なかなか無いと言えましょう。音楽が進んでいくにあたって、妨げになるようなものがどこにも見当たらない。
思うに、リハーサルの大半を、≪ペトルーシュカ≫に費やしたのではないでしょうか。音楽の磨き上げが、なんとも見事でありました。そのことを土台にして、抜群のバトンテクニックを駆使しながら、的確に意思伝達を行ってゆくデュトワ。そう、場面ごとに、音楽が求めているスピード感はどうなのか、音楽の深度はどうなのか、等々、デュトワが感じている音楽が如何なるものかが明確に読み取れる棒さばきでありました。そのうえで、オーケストラをシッカリと束ねてゆく。デュトワ・マジックは、かくして実現されてゆくのだ、という姿を、目の当たりにした思いでありました。
全てが、作品が望んでいる形で収まっていた。そんな演奏でありました。しかも、エレガントで、気品のある音楽でありつつも、充分にドラマティックでもあった。力感に不足はなく、音楽が生き生きと躍動していた。
いやはや、絶品な≪ペトルーシュカ≫でありました。

ちょっと余談になります。
この日は、東京在住の、学生オケで同期だったトロンボーン吹きも聴きに来ていました。大のデュトワファンのため、大阪に駆けつけてきた。
席は離れており、別々で聴いていたのですが、帰路は、この日の演奏について語り合う。学生時代にタイムスリップしたかのような、懐かしくて楽しいひとときでありました。