ハイフェッツによるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴いて

ハイフェッツ&ミュンシュ&ボストン響によるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(1959年録音)を聴いてみました。

ハイフェッツによる演奏の特徴、それは、高度なテクニックを土台としながら、緻密かつ均整の取れた音楽を奏で上げることにあったと言えましょう。その見事さに、多くの音楽愛好家はひれ伏し、更には、同業のヴァイオリニストの多くは畏怖の念を抱いていた(中には、コンプレックスを抱く同業者も多かったよう)とのこと。そのようなこともあり、「ヴァイオリニストの王様」と呼ばれてもいたハイフェッツ。

そんなハイフェッツによるメンデルスゾーンの協奏曲ですが、全くベトツキのない毅然とした演奏であります。
いわゆるザッハリッヒ(即物主義)な演奏と言えて、過度な感情表現を施さずに、バッサバッサと音楽を進めてゆく。しかも、技巧のキレは抜群。それはもう、「痛快」と言っても良いくらいに。身体で風を切りながら、クールに、そしてパーフェクトに突き進んでゆくような趣きが感じられます。まさに、明晰極まりない演奏が繰り広げられている。
しかしながら、決して表面的な音楽にならずに、彫琢の深さも感じられる。第2楽章をはじめとして、ロマンティックな抒情性にも不足はない。更に言えば、全楽章を通じて音楽が躍動していて、作品自身が嬉々としているかのようでもある。
そんなこんなのうえで、この演奏には、独特の気魄や緊迫感がある。男気の感じられるメンデルスゾーン演奏、そんなふうにも言えるように思えます。

何もかもが絶妙な演奏。
今更ながらの言い方になりますが、驚異的な完成度を示した快演であると思います。