アバド&ロンドン響によるビゼーの≪アルルの女≫と≪カルメン≫組曲を聴いて
アバド&ロンドン響によるビゼーの≪アルルの女≫と≪カルメン≫組曲(1980,77年 録音)を聴いてみました。
ここでの≪カルメン≫組曲は、4つの幕へのそれぞれの前奏曲を抜粋して編まれたものとなっています。≪カルメン≫を組曲として演奏される際の、最もコンパクトにして、最もスタンダードな形態だと言えましょう。この音盤では、ベルガンサをタイトル・ロールに配して制作された全曲盤から抜き出して収録されています。
さて、ここでの演奏は、1980年前後の、アバドの美質がよく現れている演奏だと思います。すなわち、理知的でありつつも、生命力に溢れていて、覇気があって、小気味が良くて、快活で、颯爽としている。≪アルルの女≫の冒頭からして、キビキビとした音楽が鳴り響いています。しかも、キリっとしていて、表情が凛としている。≪カルメン≫の第1幕への前奏曲を筆頭として、疾駆感に満ちた演奏が繰り広げられてもいる。
更に言えば、エッジが効いていて、明瞭な音楽づくりが為されている。全編を通じて、目鼻立ちがクッキリしていて、明朗な音楽となっている。
そう、演奏の方向性が、とてもストレートだと思うのであります。頗る実直な演奏となっている。屈託がなくて、身のこなしがしなやか。歌心に溢れていて、伸びやかで、カラッと晴れ渡っているような音楽となっている。
そのうえで、エネルギッシュで、ダイナミックでもある。それでいて、音楽が空転するようなことは全くなく、品格があって、理知的な音楽が展開されている。
この、ビゼーによるチャーミングな音楽作品の魅力を堪能することのできる、更には、音楽を聴く悦びを心行くまで味わわせてくれる、見事な、そして、素敵な素敵な演奏であると思います。
それにしましても、1970年代から80年代の前半辺りにかけてのアバドの演奏、実に魅力的であります。