ブーレーズ&ウィーン・フィルによるマーラーの≪悲劇的≫を聴いて

ブーレーズ&ウィーン・フィルによるマーラーの≪悲劇的≫(1994年録音)を聴いてみました。


緻密で、明晰で、知的で、キリッと引き締まっていつつも、過度に鋭角的になっておらず、ふくよかさを持っている演奏だと言えそう。それはすなわち、ブーレーズの個性と、ウィーン・フィルの体質とが融合した結果であるように思えます。
ブーレーズらしいシェイプアップされた音楽づくりがなされています。輪郭線がキッチリしていて、音像がクリア。スッキリとしていて、見通しの良い演奏が展開されています。そのようなことによって、あまりドロドロしていなくて、粘り気の少ないマーラー演奏となっている。
その一方で、ここでブーレーズが奏で上げている音楽は、エネルギッシュで、力感に溢れたものとなっています。決して冷徹な演奏とはなっておらずに、必要十分な情感の豊かさが備わっている。淡白なようで(そう、ブーレーズによるマーラー演奏は、私の中では淡白な印象が強い)、充分に熱気を帯びていて、しつこくならない程度にこってりとしている。音楽から「うねり」がしっかりと感じられもする。
変に「悲劇的」ぶらずに純音楽として捉えながら、作品の核心を外さずに、生気に満ちた演奏が繰り広げられている。
そこにウィーン・フィルの柔らかくて艶やかで、まろやかで膨らみのある美音が添えられることによって、より一層、瘦せ過ぎていない音楽が鳴り響くこととなっています。演奏に、しっとりとした潤いや、しなやかさや、暖かさが与えられている。硬質な感触に傾きがちなブーレーズの演奏が、柔らかさや丸みが帯びることとなってもいる。更に言えば、マーラーならではの艶美な味わいが添えられることにも繋がっているように思える。
もっとも、1990年代以降のブーレーズの演奏は、それ以前と比べると丸みを帯びてきたように見なしています。ここで繰り広げられている演奏は、その傾向がウィーン・フィルを指揮することによって増幅された結果だとも言えそうです。

とにもかくにも、ブーレーズ&ウィーン・フィルのコンビの妙が発揮されているマーラー演奏。
独特の魅力を持っている、素敵なマーラー演奏だと思います。