フリッチャイ&ベルリン・フィルによるベートーヴェンの≪英雄≫を聴いて

フリッチャイ&ベルリン・フィルによるベートーヴェンの≪英雄≫(1958年録音)を聴いてみました。

フリッチャイ特有の切れ味の鋭さは影を潜め、構えのドッシリとした、重厚な演奏が繰り広げられています。
過剰に音楽を煽るようなことは一切ありません。情熱の迸りも薄い。威圧感も無い。音楽が、余裕を持って鳴り響いている。
(この演奏の中で、最も情熱的で燃焼度が高いのは、葬送行進曲となっている第2楽章でありましょう。)
ここでの演奏は、外に向かってエネルギーを拡散してゆくような類のものになっていません。内側にギュギュっと凝縮させてゆくような演奏が繰り広げられている。更に言えば、決して力任せな音楽ではないものの、逞しい生命力を宿した演奏となっている。
その結果として、無為自然とも言えるような演奏ぶりの中から、この作品に相応しい、風格豊かで、威容を誇る音楽世界が立ち昇ってくることとなっている。
しかも、ベルリン・フィルの響きが、強靭でいてまろやかで、堂々としたものとなっていて、見事。

音楽の純度が頗る高い演奏。小手先で勝負するような演奏からは最も遠くにあるような演奏ぶりだとも言いたい。しかも、ここでの音楽は充実を極めている。そう、純真でいて、充実感たっぷりな演奏が展開されている。
肩肘を張らずに聴き進められ、かつ、≪英雄≫が持っている音楽世界にどっぷりと身を浸すことのできる、見事な演奏であります。