リヒテルによるムソルグスキーの≪展覧会の絵≫を聴いて

リヒテルによるムソルグスキーの≪展覧会の絵≫(1956年 セッション録音)を聴いてみました。


豪快に掻き鳴らしていると言うよりも、端正に奏で上げている演奏となっています。派手に騒ぎ立てるようなことはなく、音楽全体がキリっと引き締まっている。
なるほど、打鍵は強く、毅然とした演奏ぶりであります。剛健でもある。と言いながらも、力でねじ伏せるような演奏にはなっていません。むしろ、デリカシーに満ちた音楽が鳴り響いている。それだけに、音楽が示している佇まいは、誠に美しい。打鍵の強さは、威厳のある雰囲気を醸成することに繋がっているとも言えそう。
そのようなこともあって、「古城」では抒情性に満ちた美しさが光っている。「ビドロ」では、強靭なタッチによって重々しい演奏が展開されていつつも、凛とした音楽世界が広がっている。
しかも、テクニックは万全。例えば、「リモージュ」から「カタコンベ」へ滑り込んでゆく場面や、「ババ・ヤーガ」などでは、目くるめくピアニズムが披露されています。それでいて、全編を通じて、切れ味を追求しながらアクロバティックな音楽を追求してゆくというよりも、音楽に安定感を与えるために類い稀なるテクニックを駆使している、といった演奏ぶりとなっている。

作品の構造や機微が、クッキリと見えてくるような演奏。そのことは、ピアノで聴く≪展覧会の絵≫の醍醐味だとも言えましょう。
この作品の世界にどっぷりと身を浸しながら、作品の魅力を堪能することのできる、素晴らしい演奏であります。